レッドブル・エアレースの2017年シーズン開幕を2週間後に控えた室屋義秀選手の記者会見が東京都内で開かれ、昨シーズンを振り返るとともに、今シーズンに向けての抱負を語りました。
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記者会見はトークショウ形式で進行。昨シーズンのハイライトとなった千葉大会での初勝利の話題では「千葉の話なら1時間でも話しますよ(笑)」と語るなど、終始和やかな雰囲気でした。
トークは和やかに進行
今シーズンに関しては、新たなチームテクニシャンとして、ロサンゼルスに拠点を置くエンジニアのピーター・コンウェイ氏が加入。機体は昨シーズン終了から今シーズン開幕までの期間が短かった為、機体の修復の他は若干の手直し程度しかできない状態で開幕戦のアブダビに臨むことに。しかし、第2戦のサンディエゴ、第3戦の千葉までの間隔にゆとりがある上、第2戦は機体開発の拠点があるカリフォルニア州で開催されるので、次の日本(千葉)開催と合わせて開発・テスト期間が取れるのはありがたいとのこと。この期間を利用して、エンジンカウルなど、大規模な改修を考えているそうです。
今シーズンの目標は、やはり年間王者。その為に機体の改修だけでなく、体幹を中心とした筋力トレーニング、そして自分が置かれている精神状態や「集中する」ということを客観視し、それをコントロールするといったメンタルトレーニングも重ねているとのことです。
トークショウでの室屋選手
これからについては、これまで蓄積された経験を活かし、いつか自分専用のレース機を作って参戦したいという夢も語ってくれました。
■室屋義秀選手インタビュー
イベント終了後、室屋選手に独占インタビューしました。
開幕戦、アブダビのトラックの印象はいかがですか? 昨年と較べると、ゲート3とゲート4の配置が変わって、クラウドライン(飛行可能区域を示すライン)に干渉しにくくなったようですが。
2017年アブダビ大会のトラック(画像: Red Bull)
(参考)2016年アブダビ大会のトラック(画像: Red Bull)
「よく見てますね(笑)。確かにクラウドラインやオーバーGを気にせず、ターンできると思いますね。あとは昨年悩まされた計測機器の変更などがなければ、昨年のような波乱は起きにくいでしょう。本来の実力を競う、ピュアなレースができると思います」
第2戦が室屋選手の機体開発拠点があるカリフォルニア州になったことは、室屋選手にとってはプラスだと思うのですが。色々試した結果を千葉まで持って行きやすいというか。
「そうですね。サンディエゴの前1ヶ月ほど、そして千葉の前の期間と……まぁみんな条件は一緒なんですけど、自分たちのワークショップがあるところに行けるというのは、かなり大きいと思いますね。ヨーロッパにベースのある人たちは、夏のヨーロッパラウンドの間にだいぶ上げてきますんでね……そこらへんが課題でもあったので。我々もヨーロッパのベースは色々築いてますし、アメリカの方も使えるので、だいぶ環境としては戦いやすくなってきました」
エンジンカウルを改修されるということですが、このオフシーズン中にエンジン周りの冷却空気の流れを整えた部分を反映させるという感じですか? それとも、さらに空気抵抗を軽減する目的もあるんでしょうか。
「両方の目的ですね。千葉に間に合えば、そうした新カウルで……と考えています。今のパッケージでも悪くはないので、とりあえず……間に合えば、試作してテストして、結果が良ければ(千葉戦に)投入するということになると思いますけども。結構今の状態でも悪くはないので、僅差……という具合で投入、となったらいいな、と思ってますけどね。作っても没、というか実戦投入しないものもあるので、そうならなければいいな、と思っています」
より空気抵抗(表面抵抗)の少ないものになるのであれば、恐らくまた高速レイアウトになるであろう千葉のトラックに向いたものになるでしょうね。
「そうですね。千葉は恐らく高速トラックになると思いますんで、直線スピードが必要だと思いますね」
年間チャンピオンを目指す、ということを考えた時、確実にファイナル4に残り、表彰台に乗っていくということが必要です。その為には予選や、決勝の各レースをいかにマネジメントしながら飛んでいくか、という点が重要になると思います。全体を通しての戦略は、どのように考えてらっしゃいますか?
「ラウンド・オブ14の戦い方っていうのが大事なのかな、と思っています。そこの勝ち抜けが2016年シーズンはうまくできなかったな、と思っているので。考えすぎてペースを落とす……とか、色々やってしまったので。それをせずに、もう持っているポテンシャルのまま、ピシッと飛んでいくと。そうすると自然に上位にいますので。そうすればラウンド・オブ8もあまり考えないで、淡々と勝負をこなしてファイナル4に進んでいけるんじゃないかと思っています」
ラウンド・オブ14で上位のタイムを出すことで、タイムではなく純粋に相手との勝負となるラウンド・オブ8の組み合わせを楽にしていく、という感じですね。
「ラウンド・オブ14のタイム上位4人が、ラウンド・オブ8で(相手の出方をうかがうことのできる)後攻に入ることになりますので、ラウンド・オブ14で常にトップ4に入っておくことで有利に戦っていけると思うんですね。もちろん、ラウンド・オブ14の組み合わせを決める予選でも同じことですが。常にトップ4に入る展開にすることで、シビアな組み合わせにならないはずなので。そうすれば、ゲーム展開であまり考えなくても良くなる。そういう状態を作っていこうと考えています」
ライバルの話ですが、このオフシーズンの話題としては、2015年、2016年と連続して年間2位のマット・ホール選手が今シーズン、MXS-Rからエッジ540に乗り換える(開幕戦はMXS-Rで臨み、シーズン途中で投入予定)という驚きがありました。室屋さんとしては、このホール選手の選択について、どのように感じてらっしゃいますか?
「んー……速くなるのか遅くなるのか、どう判断するのかっていうところがあるんですが、前のマシン(MXS-R)よりは速くならないんじゃないかな、という風にちょっと思ってたりしてますね。ストック(改造を施していない状態)のエッジ540V3なら、(こちらは)そんなに心配しなくてもいいという状態になっているので、どのくらい(改造が)間に合ったのかな……という感じですね。逆にタイムは落ちるんじゃないかなぁ……と。マットのMXS-Rはかなり熟成されていたので、どっちかな……ちょっと遅くなるんじゃないかな……と、なんとなくは思ってますけど。(乗り換えた)序盤は結構大変なんじゃないかと。そうなってくれると、こっちはありがたいんですけど(笑)。まぁ判りませんね、行ってみないと」
レッドブル・エアレースも徐々に世代交代が進んできて、室屋さんたち「2009年組」のパイロット(他にドルダラー選手、ホール選手、マクロード選手)が中心的存在になりつつありますが、その点については。
「どうでしょうね……。まぁ牽引してくでしょうし、レギュレーションもどんどん変わっていく中で、我々の世代がいろんなことを、次のレースシリーズに向けて提案しなきゃいけないでしょうし。そういう役割は増えるんじゃないでしょうか。ルーキーの頃のように、ただ飛ぶってだけじゃないところも出てますけどね」
トークショウでも触れてらっしゃいましたが、自分たちのレースプレーンを作りたい、ということですが、これは2015年までピーター・ベゼネイ選手が乗っていたコーバス・レーサーのような純粋なレース用ということですか? それとももっと広く、エアロバティック(曲技飛行)機としても使える機体なんでしょうか。
「完全にレース専用です」
室屋さんはレッドブル・エアレースやエアショウでの活動、そしてNPO法人「ふくしま飛行協会」を通じて子供達に空を身近に感じてもらう活動をしてらっしゃいます。現在チャレンジャークラスには、ケビン・コールマン選手や、今年から参戦する香港のケニー・チャン(蒋霆)選手など、子供の頃にレッドブル・エアレースを見て、エアレースパイロットを夢見て飛び続け、そのステージにたどり着いた……という、いわばレッドブル・エアレース第2世代という選手も出てきました。レッドブル・エアレースというスポーツが定着し、新たな世代へのバトンタッチが実現しつつある状況ですが、その辺りはどうお考えでしょうか。
「レースシリーズが熟成されてくれば、目指す人も増えてくるでしょうし、そうなると(参戦する)シートの取り合いも激しくなってくれば、下位のクラスのシリーズ戦も自然に生まれてくると思いますんでね……チャレンジャークラスのさらに下のクラスとか。そういう状態になって発展していくと思います。大事なことだと思いますし、もちろんそこに日本からも参戦する人が出て欲しいなと思いますし……。そう遠くない未来に、徐々に起きてくるんじゃないでしょうかね」
今年のエアショウの予定ですが、これから徐々にスケジュールは発表されていくという感じでしょうか。
「そうですね。徐々に調整していって……レッドブル・エアレースのスケジュールが決まらないと動けないものですから。レースの日程が決まったので、これからエアショウのスケジュールも(公式サイト)で決まり次第発表していきます」
今シーズンの健闘を期待しています。
「ありがとうございます。頑張ります」
(咲村珠樹)