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Channel: 咲村 珠樹 –おたくま経済新聞
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【ミリタリーへの招待】自衛隊観閲式2013

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10月27日、陸上自衛隊朝霞訓練場にて「平成25年度自衛隊記念日 観閲式」が開催されました。今回はその様子をレポートします。

自衛隊観閲式は、11月1日の自衛隊記念日の行事として行われるもので、陸海空3自衛隊が持ち回りで開催しています。昨年は海上自衛隊の観艦式があり、今年は陸上自衛隊の観閲式。来年は航空自衛隊の航空観閲式が行われる予定です。

10月20日の予行は雨に見舞われましたが、27日の本番は関係者の願いが空に届いたか快晴。風が強く、予定されていた空挺降下は中止となりましたが、その他の行事は恵まれた天候のもと、行われました。

【関連:観艦式2012・事前イベント編】

自衛隊観閲式


自衛隊の最高指揮官である、安倍晋三内閣総理大臣を観閲官として迎えて開式。栄誉礼や巡閲を経て、安倍首相は訓示を行いました。

訓示する安倍首相

安倍首相らが座る観閲台の前には、内閣総理大臣旗、防衛大臣旗、防衛副大臣旗に加え、統合幕僚長旗をはじめとする陸海空幕僚長旗がズラリ。これだけのVIP旗が並ぶと壮観です。

ズラリと並ぶVIP旗

また、在日アメリカ軍幹部をはじめ、各国の駐在武官も出席しているので、様々な軍服を見ることのできる貴重な機会。会場では武官による一種の外交も行われます。

各国の駐在武官と夫人

訓示が終わると、第1空挺団の隊員による空挺降下の予定でしたが、強風の為にキャンセル。アナウンスで中止が告げられると、集まった観衆から残念そうな声が。危険でもありますし、流されて民家などに行ってしまってはいけませんから、やむを得ませんね。

陸上自衛隊中央音楽隊、海上自衛隊東京音楽隊、航空自衛隊航空中央音楽隊合同による音楽隊の演奏で、いよいよ観閲行進が始まります。指揮をするのは陸上自衛隊中央音楽隊長。観閲部隊指揮官である第1師団長の車を先頭に、まずは徒歩行進です。「陸軍分列行進曲」にのって、防衛大学校学生隊、防衛医科大学校学生隊、高等工科学校生徒隊と、自衛隊の未来を担う人材が行進。防衛大学校と高等工科学校の代表はサーベル、そして防衛医科大学校の代表は医学の象徴である「アスクレピオスの杖」を持っての行進です。

観閲部隊指揮官の第1師団長 防衛大学校
防衛医科大学校 少年工科学校

学生に続いて普通科部隊、空挺部隊が行進。普通科部隊は第1普通科連隊に所属する隊員達。今回の観閲式に参加している部隊の多くは、10月16日以降、伊豆大島で発生した土砂災害の行方不明者捜索の為に災害派遣されている部隊でもあります。災害派遣された隊員も観閲行進する隊員も、どちらも自衛隊の代表として活動している訳ですが、伊豆大島で行方不明者を捜索している同僚達の思いも乗せて、彼らは行進している訳です。

普通科部隊

さて、素人目には徒歩行進の意味というか見方がよく判らないかもしれません。一見ただ歩いてるだけに見えますが、この行進の間隔・動きが揃っているというのは、訓練が行き届いているという証拠。つまり、任務を忠実に実行できる練度の高さが行進の動きに反映されているということなのです。

行進で練度が判る

音楽隊の演奏する曲が行進曲「軍艦」に変わりました。海上自衛隊の部隊が登場です。千葉県にある第3術科学校の学生を中心にした部隊です。

海上自衛隊

海上自衛隊に続いては、航空自衛隊の部隊が登場。航空自衛隊公式行進曲「空の精鋭」に合わせて行進します。

航空自衛隊

さらに曲が陸上自衛隊公式行進曲「大空」に変わります。自衛隊中央病院・高等看護学院学生隊、そして陸海空の女性自衛官部隊の行進です。高等看護学院は来年度から防衛医科大学校に併合され、その一部となる為に、高等看護学院としては最後の観閲行進となりました。

中央病院高等看護学院学生隊は最後の参加 女性自衛官部隊

徒歩行進が終わると、今度は観閲飛行。陸海空の航空機、総勢53機が編隊飛行で続きます。陸上自衛隊は千葉県の木更津駐屯地から、海上・航空自衛隊は各地の基地より飛来。速度がまちまちの航空機が見事な間隔で飛行する辺り、航空統制(管制)のテクニックも素晴らしいものですね。

AH-1S LR-2
US-1AとUS-2 第2航空隊のP-3C
第401飛行隊のC-130H 第8飛行隊のF-2A
第305飛行隊のF-15

参加していた航空機は以下の通り。

■指揮官機:
第1ヘリコプター団・第104飛行隊 CH-47JA(千葉県・木更津駐屯地)
第1師団・第1飛行隊 OH-6D(東京都・立川駐屯地)
教育支援飛行隊・富士飛行班 OH-1(静岡県・滝ヶ原駐屯地)
東部方面航空隊・東部方面ヘリコプター隊 UH-1J(東京都・立川駐屯地)
第4対戦車ヘリコプター隊・第1飛行隊 AH-1S(千葉県.木更津駐屯地)
西部方面ヘリコプター隊 UH-60JA(佐賀県・目達原駐屯地)
航空学校・霞ヶ浦校 AH-64D(茨城県・霞ヶ浦駐屯地)
第1ヘリコプター団・第106飛行隊 CH-47J/JA(千葉県・木更津駐屯地)
第1ヘリコプター団・連絡偵察飛行隊 LR-2(千葉県・木更津駐屯地)

■海上自衛隊:
第71航空隊 US-1A・US-2(山口県・岩国航空基地)
第2航空隊 P-3C(青森県・八戸航空基地)
第91航空隊 U-36A(山口県・岩国航空基地)

■航空自衛隊:
第401飛行隊 C-130H(愛知県・小牧基地)
第8飛行隊 F-2A(青森県・三沢基地)
第305飛行隊 F-15J/DJ(茨城県・百里基地)

特に第305飛行隊のF-15は非常にタイトなグッドフォーメーション。編隊長機のF-15DJ(32-8082号機)は、昨年の観艦式でも編隊長機として飛行していました。

観閲行進の最後は車両行進。軽快な「祝典ギャロップ」に合わせて様々な車両が行進します。先頭は国際派遣部隊、その中心となる中央即応連隊、そして今までの国際派遣部隊の隊旗が続きます。

中央即応連隊 国際派遣部隊の隊旗

その後、偵察部隊、普通科、即応予備自衛官、予備自衛官、施設科、通信科、科学科、衛生科、需品科、情報科、西部方面普通科連隊の車両が続きます。偵察オートバイや普通科の89式装甲戦闘車がこれほど並ぶのは壮観。また、通信科、情報科の車両行進もなかなかレアですね。最近重要性が増している、離島防衛を担う西部方面普通科連隊は、偵察・上陸用のゴムボートを牽引して行進。

偵察部隊オートバイ 普通科部隊の89式装甲戦闘車
即応予備自衛官部隊の災害派遣装備 施設科部隊の92式地雷原処理車ら
情報科部隊 西部方面普通科連隊

航空自衛隊のパトリオット(PAC3)部隊は、ドラマ『空飛ぶ広報室』第5話に登場した第1高射群第4高射隊(埼玉県・入間基地)。ドラマ同様、ミサイル本体は「投げても爆発しない」訓練弾でした。

空自パトリオット部隊 PAC3は訓練弾

車両行進は高射特科、野戦特科と続き、最後は戦車部隊。観閲式初参加の10式戦車を先頭に74式戦車、90式戦車が続きます。高射特科の87式自走高射機関砲、野戦特科の99式自走155mmりゅう弾砲も壮観。

高射教導隊の87式自走高射機関砲 野戦特科部隊の99式自走155mmりゅう弾砲
戦車部隊

これで観閲式は終了し、観閲官である安倍総理大臣は退場しました(この日午後には伊豆大島の被災地訪問へ)が、まだまだ催しは終わりません。

少年工科学校ドリル部によるファンシードリルや、在日アメリカ陸軍軍楽隊によるコンサート、自衛隊太鼓の発表に、東部方面音楽隊と自衛隊太鼓との共演が。東部方面音楽隊と自衛隊太鼓の共演は、川中島の戦いをモチーフにした曲で、音楽隊の左右に陣取った自衛隊太鼓が武田軍と上杉軍を表現して、なかなかにダイナミックな曲でした。

少年工科学校のファンシードリル
在日米陸軍バンド 音楽隊と自衛隊太鼓の共演

装備品展示会場では、アメリカ海兵隊キャンプ富士から、防衛省も導入を検討しているという水陸両用強襲輸送車AAV7(Assault Amphibious Vehicle, personnel.model7)が展示。車内には個人装備も入っており、どのように運用するかが判るようになっていました。

米海兵隊AAV7 AAV7後部ゲート

自衛隊の装備品では10式戦車が大人気。車両見学に行列ができていましたが、隣の90式戦車・74式戦車の見学は閑散とした有様。説明員としていた第1戦車大隊の隊員さんは「90にしてみれば、きっと『20年もして新型戦車が登場すれば、お前(10式)も同じようになるんだぞ』と言いたいんじゃないでしょうかねぇ」と、90式戦車の気持ちを代弁してくれました。

10式戦車は大人気 90式と74式は少なめ

10式戦車は実際に動かす「動的展示」も実施。砲身を下げたまま砲塔を回転させても、車体にぶつからないよう自動的に砲身の高さを調整する装置や、砲身の高さを一定にし、狙いを付けたまま車体姿勢を変化させる様子に驚きの声が上がっていました。

99式自走155mmりゅう弾砲は、砲身を上げた射撃姿勢での展示。静岡県・富士駐屯地の特科教導隊のものかと思いきや、北海道の実戦部隊から持ってきたものでした。輸送艦で持ってきたのかと思ったら、隊員さんいわく「日通(日本通運)です」。……同人誌のコミケット会場搬入や国宝の美術品から自走砲の輸送まで、日通ってほんとに何でも運ぶんですね……。

99式自走155mmりゅう弾砲

災害派遣関係の装備品では、野外手術システムや野外入浴セットなども展示。野外手術システムの展示では、キャンプ富士のアメリカ海兵隊員が、興味深く衛生科隊員の説明を聞いていました。

野外手術システム
手術室の説明を受ける海兵隊員 野外入浴セット2型

また、今回初の試みとして、各地の自衛隊地方協力本部(地本)などの「自衛隊ゆるキャラ」も集合。子供たちにかわいいと評判だったのは神奈川地本の「はまにゃん」。新潟地本の「ヒカリン・マモル」は、頭が新潟名産のコシヒカリでできたおにぎりという設定で、なんと空挺レンジャーです(場合によっては違うこともあり)。埼玉地本の「サイポンくん」は、今年の「ゆるキャラグランプリ」にエントリーしています。東京地本の「トウチ君」に、東部方面隊の「あずま君」と「かすみちゃん」……バラエティ豊かで来場者の評判も上々だったので、次回も継続されるといいですね。

神奈川地本のはまにゃん 新潟地本のヒカリン・マモル
迷彩ゆるキャラ集合

風はあったものの、好天に恵まれた観閲式。来年は航空自衛隊の担当する航空観閲式が、茨城県の百里基地で実施されます。

■取材協力:防衛省

(取材:咲村珠樹)


【宙にあこがれて】第39回 コミケを超えた!? 入間航空祭

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11月3日、埼玉県の航空自衛隊入間基地で「第45回入間航空祭」が開催されました。

日本で一番多くの人が訪れることで知られる入間航空祭ですが、今回は連休の中日、そしてドラマ『空飛ぶ広報室』の人気を反映して、なんと会期1日となった中では過去最高である、32万人(基地発表)もの来場者で賑わいました。最寄り……というか、入間基地の敷地内にホームがある西武池袋線稲荷山公園駅の臨時改札口からは、電車が着くたびに多くの人が降り立ち、開門前からものすごい混雑ぶり。西武池袋線は今年から、東京メトロ副都心線を介して東急東横線・みなとみらい線と繋がり、横浜方面からのアクセスも良くなったことで、更に乗客が増えたようです。

【関連:2011年入間基地航空祭レポート】

駅の臨時口から出る人波 開門を待つ人波


ちなみに32万人という数字ですが、陸海空合わせた自衛隊員の総数が約22万5000人(2013年3月末時点)ですから、その1.4倍。1日のイベント参加者という点で見ると、過去最高の参加者で賑わった2013年夏のコミケット84の1日あたり最高の参加者数(1日目・2日目で各21万人)の1.5倍です。開門から1時間半後の10時30分時点で、エプロン地区は人でギッシリ。全国の自衛隊員が1カ所に集合するとこんな感じなのか、とか、普段「人多すぎ」と言われるコミケットより多い人がここにいるのか……と思うと、ただただ驚くばかりです。

10時半時点での人波

迷子も相次ぎます。迷子のお知らせをする場内放送を聞いていると、高知、山梨、山形……本当に全国から集まっているのが判ります。そして、これだけ人が集まると、悲しいことに来場者のマナーも低下します。元々エプロン地区は12時半以降、レジャーシートを敷かないようパンフレットに記載されていたのですが、あまりにも来場者が殺到して危険になった為に予定を繰り上げ、お昼前にはレジャーシートを畳むよう「お願い」をすることに。再三場内放送で周知をはかっていましたが、無視する人が続出。中には係の自衛官に食ってかかる人も目にしました。32万人も集まると、ひとりひとりの「ちょっとぐらいいいだろう」という考えは積もり積もって、最終的に大きな混乱に繋がります。それでなくとも一般のイベント会場とは違う自衛隊の基地ですから、危険を避ける為に係員の指示には従って欲しいものです。

会場の案内図には、ドラマ『空飛ぶ広報室』のロケ地がドラマのロゴで示され、聖地巡礼もできるようになっていました。屋内展示会場では、ドラマ撮影のこぼれ話などのパネル展示も。

会場案内図にはロケ地も記載

飛行点検隊のYS-11FCとU-125によるフライトで始まった展示飛行。今年度限りで海上自衛隊のYS-11が全廃されてしまうので、東日本でYS-11のダートサウンドが聴けるのは、この飛行点検隊に所属するYS-11FCのみとなります。それもいつまで続くか……寂しさも感じつつ「ギュイーン」という独特の音を楽しみました。

飛行点検隊のYS-11FCとU-125

地上では、ブルーインパルスのパイロットによるサイン会が。パイロットと直接触れ合える機会だけに大人気です。

ブルーインパルスのサイン会 Tシャツにサインしてもらう人も

集まったファンの中には、東急プラザ蒲田で開催していた「Myブルーインパルス展」に11月1日来場した、ブルーインパルスのネイルアートをした熱心な女性ファンの姿も。機体のデザインや、スタークロス、キューピッドなどの演技課目をモチーフにしたもので、機体の国籍章(日の丸)などはラインストーン。ネットでも評判になっていましたが、このネイルアート、お店ではなく自分で4日かけてコツコツ仕上げたそうで、本当に熱意の賜物だなぁ……と愛情の深さに感じ入りました。

ブルーのネイルアート

上空では、航空総隊司令部飛行隊のT-4による飛行展示が始まります。平均年齢は50代になるという熟練パイロットたち、通称「シルバーインパルス」による、見事な編隊飛行が行われました。ソロ機として様々な機動を見せてくれた5番機を操るのは、元ブルーインパルスの飛行班長(2009年〜2010年シーズン)。ブルーインパルスの後、空幕広報室を経て、総隊司令部に異動していたんですね。

シルバーインパルスのハンマーヘッド隊形 元ブルーが操るシルバーインパルス5番機

百里救難隊と入間ヘリコプター空輸隊の救難展示では、入間ヘリコプター空輸隊の今井1尉によるノリノリのナレーションが、まるで欧米のエアショウのようで素敵でした。個人的には、日本でももう少しショウアップされたナレーションが欲しいと思っているので、こういう試みはもっと増えて欲しいですね。

CH-47Jの機外懸吊

入間基地といえば、第402飛行隊のC-1輸送機。第1空挺団の空挺降下、そして戦術輸送機ならではの軽快な運動性を披露するおなじみの展示です。ボーイング727、737、DC-9などの旅客機に搭載され、ベストセラーだったJT8Dエンジンですが、これを装備した機体も国内ではC-1のみとなりました。XC-2が制式化されればC-1は引退することになりますから、このジェット機らしいエンジン音も、そろそろ聴けなくなってきそうです。

空挺降下 降下中の空挺隊員
大バンクで旋回するC-1

地上展示では、青森県の三沢基地から飛来した第3飛行隊のF-2Aが、10月上旬に開催された戦技競技会(戦競)に参加した544号機。嬉しいことに、戦競の特別塗装を落とさずに来てくれました。

第3飛行隊のF-2A戦競参加機 第3飛行隊F-2A戦競仕様の尾翼部アップ

ドラマ『空飛ぶ広報室』第5話の舞台となったのが、この入間基地の第1高射群第4高射隊。展示された迎撃ミサイル、ペトリオットは前週の10月27日に開催された自衛隊観閲式に参加したのと同じランチャーでした。ゴツゴツした外観のPAC2(航空機迎撃用)、すっきりした外観のPAC3(弾道ミサイル迎撃用)と2種類を乗せ、実際にランチャーを回転させながら、それぞれの役割を丁寧に説明していました。さらにオリジナルのゆるキャラ「パックさん」も登場。

PAC2とPAC3 第1高射群のゆるキャラパックさん

装備品展示会場では、パイロット装備を着ての記念撮影に行列が。その横には、何故かエヴァンゲリオン初号機の痛ヘルメットをかぶったマネキン。マネキンの階級章を見ると、桜星4つで航空幕僚長のものですが……しかしヘルメット、良くできてます。

装備をつけて隊員と記念撮影 エヴァの痛メット

地元周辺自治体のPRコーナーでは、各地のゆるキャラが勢揃い。子供たちの人気を集めていました。入間市の観光大使「テオ」は元々アニメ映画『ホッタラケの島』に登場したキャラクター。

埼玉県のコバトンと入間市のテオ 三芳町のみらいくんとのぞみちゃん

各キャラは今年の「ゆるキャラグランプリ」にエントリーしているライバル同士でもあります。11月8日の投票締切に向けて、熾烈な争いが繰り広げられていました。鶴ケ島市の「つるゴン」のしっぽを埼玉県の「コバトン」が引っ張ったことで小競り合いが発生し、子供になだめられる一幕も。

つるゴンにいたずらするコバトン つるゴンとコバトンの小競り合い

午後になり、ブルーインパルスの展示飛行が始まります。今回は5番機の澤村1尉がエアショウデビューとなりました。ただ残念ながら、機材トラブルで予備機と4番機が欠けてしまい、5機による展示に。本来定期整備中の機体を除いた予備機は2機あったのですが、東日本大震災で松島基地を襲った津波で804号機を失ってしまい、ギリギリの状態で回しているだけにやむを得ないところです。

そんな訳で、演技は特別構成に。ダイヤモンド隊形は後尾機(4番機)がいないのでデルタ隊形、そして4番機が主役の「レター・エイト」は実施されませんでした。大空に描かれたハートを矢が射抜く「キューピッド」も、ハートを射抜く4番機がいない為、見かけは1980年代のT-2時代に実施していた「ビッグ・ハート」と同じになりましたが、逆にT-2時代を知るファンにとっては懐かしく感じたかもしれません。

3機によるファン・ブレイク 5番機と6番機によるバック・トゥ・バック

ところが、全体の3分の2に当たる「ライン・アブレスト・ロール」を終えたところで「展示飛行に使用する空域に他の航空機が入った」ということで、危険な為ショウが中断されます。後で判ったことですが、入間市内で事故が起こり、川越市の埼玉医科大学病院からドクターヘリが出動するレスキューミッションが発生したんですね。このドクターヘリの飛行コースは、入間基地のすぐ近く、滑走路の延長線上を通過します。この為、ブルーインパルスは反対側の所沢市上空で待機。しかし救出が難航したらしく、しばらく経ってもショウは再開されません。……結局、事前に申請していた展示飛行での空域使用時間帯をオーバーしそうになったので、そのままショウを終了し、着陸することになりました。

昨年(2012年)の入間航空祭でも、ブルーインパルスはショウの最中に2番機が鳥と衝突し、そのまま終了を余儀なくされてしまいましたから、2年連続で不完全燃焼のショウとなってしまいました。観客も残念でしょうが、最後までショウを見せることができなかったパイロットも悔しいのは同じ。特に今年は各地の航空祭が天候不順で、飛べる機会が少なくなっていましたから、心残りでしょうね。

ショウ再開を待つ中、ずっと間をつないでいたナレーターの平間2尉(次期3番機パイロット)は、不測の事態にも取り乱すことなく、冷静に様々な話をしてくれました。来場者は逆に、普段聞けないブルーインパルスのナレーションを聞くというレアな体験をしたかもしれませんね。……この影響は最後となる第303飛行隊(石川県・小松基地)に所属するF-15Jの展示飛行にも及び、機動飛行の予定が通常の編隊航過飛行となってしまいました。

第303飛行隊F-15Jの編隊飛行

F-15Jの離陸準備(プリタクシーチェック)中には地震も発生し、様々なことに見舞われた入間航空祭でしたが、最後まで天候が保ってくれたのが救いでした。東京から最もアクセスの良い航空祭として、来年も多くの来場者で賑わうことでしょう。東京メトロ副都心線を中心とした5社線による複雑な相互乗り入れが始まり、ダイヤ編成が難しくなった西武鉄道としては、いかに大量の乗客をさばくかが課題になりそうですが……。

(取材:咲村珠樹)

アメリカ軍とカナダ国防軍、総力を挙げ“ビッグレッド・ワン”大追跡作戦今年も実施

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クリスマスが近づいてきました。皆さんクリスマスに向けて様々な予定を立てていることと思いますが、アメリカとカナダが共同で設置している統合防衛本部NORAD(North American Aerospace Defense Command=北米航空宇宙防衛司令部)では、恒例の大作戦に向け、準備を着々と進めています。

クリスマスイブにプレゼントを持ってくる、あのサンタクロースの追跡作戦です。

【関連:北米航空宇宙防衛司令部が今年も総力を挙げて挑む「サンタ追跡プロジェクト」】

中山競馬場のクリスマスツリー


普段は、24時間態勢で北米大陸(アメリカ・カナダ)に対するミサイル攻撃などに備えているNORADですが、クリスマスイブの夜だけは、全力を挙げてサンタクロースを追跡監視するのです。

このきっかけになったのは、1955年のクリスマス商戦。アメリカ・コロラド州の百貨店がクリスマスのおもちゃ販売キャンペーンとして「サンタさんと話せる電話」を開設し、新聞広告にその電話番号を載せたことでした。いいキャンペーンになると思ったんでしょうね。ところが、その「サンタさんと話せる電話」には、1本も電話がかかってきませんでした。何故か。

広告に記載された電話番号が、間違っていたのです。間違った番号は、よりによってとんでもない場所につながりました。当時NORADの前身であるであるCONAD(中央防衛航空軍)の司令部、しかも機密であった、司令官用直通電話(ホットライン)に……。

基本的にこの直通電話は、緊急事態が発生した時にしか鳴りません。核ミサイルが発射されたとか、敵の戦略爆撃機が接近しているとか……受話器を取り上げた当時の指揮官、ハリー・W・シャウプ大佐の心境はどうだったのでしょう。

ところが、聞こえてきたのは小さな子供の声。

「おお、なんてこった!と思ったからね。忘れもしない。
国防総省直通のレッドフォン(ホット)ラインが鳴り、(上司であるアメリカ防衛空軍司令)パートリッジ(Earle Everard”Pat” Partridge)大将からの電話だと思って

『はい、こちらシャウプ大佐であります』
と答えた。
『……閣下。シャウプ大佐です。お判りですか?』
そうしたら
『……ほんとにサンタさん?』
という声が聞こえてくるじゃないか。

私は周りの部下達を見回し、誰かがからかってるんじゃないかと思ったよ。あまりにもおかしな光景だったからね。

そして
『……もう一回言ってくれないか?』
と電話口に話しかけた。
そうしたらまた
『……ほんとにサンタさんなの?』
と返ってきたんだ」

シャウプ大佐の回想ですが、実に間抜けな光景だったんでしょうね……。「サンタさんと話せる電話」と思って、子供が電話をかけてきたんですから。

しかしシャウプ大佐は、不測の事態にも動じない優秀な軍人でした。相手はサンタと信じている子供です。その夢を壊してはいけないと機転を利かせ、サンタクロースの住んでいる北極から何かが飛び立った形跡がないか、部下に調べさせた結果を伝えました。恐らく、自分はサンタクロースではなく、彼を追跡監視する仕事をしているんだ……みたいなことも同時に伝えたんでしょうね。次々かかってくる電話に、大佐は同様の対処をしました。

普通なら間違った広告で業務(しかも国防の)を妨害されたんですから、百貨店に対して厳重に抗議するんでしょうが、CONADは逆にこのハプニングを面白く感じたようです。この後CONADには、クリスマスの特別任務として「サンタクロース追跡」が追加されました。シャウプ大佐はこの一件で有名になり「サンタ大佐」というニックネームで呼ばれるようになったとか。

この任務は1958年にCONADから現在のNORADに改組された後も、脈々と受け継がれてきました。最初は電話サービスのみだったのですが、インターネットが一般化した1997年からは、毎年12月1日に専用サイトを開設。今年はアメリカ山岳標準時の12月24日、午前0時(日本時間24日午後4時)から「サンタ追跡」を実況中継する予定です。

さて、実際にどのようにNORADはサンタクロースを捕捉し、追跡(エスコート)しているのでしょうか。本来なら重大な軍事機密かもしれないのですが、YouTubeにNORADが動画を公開し、紹介しています。NORADではサンタクロースを「ビッグレッド・ワン」というコールサインで呼んでいるようですね。


追跡するのはNORADだけではありません。海軍の空母やイージス艦、原子力潜水艦など、アメリカ軍とカナダ国防軍の総力を挙げた大作戦です。軍だけでなく、FAA(アメリカ連邦航空局)もこの作戦に協力しています。

NORADのサンタ追跡サイト「NORAD Tracks Santa」では、今までの調査活動から得られたサンタクロースのソリについての情報も出ています。これも軍事機密(日本でいうところの特定秘密)に当たるのか、いくつかの数値の単位が独特のものになっています。もし詳細なデータがテロリストの手に渡り、サンタクロースが襲われたら大変ですので、この措置も納得ですね。

この情報によると、サンタクロースのソリは西暦343年の12月24日製造、プレゼントの最大積載量は6万トンにも及びます。武装として「トナカイの角」が装備されていますが、これは「純粋な防衛用」ということだそうです。最高速度は「星の光より速い」とあるので、戦闘機などは簡単に振り切られてしまうようです。

この他、サイトには各種のゲームがあったり、アメリカ空軍大学音楽隊や沿岸警備隊音楽隊、カナダ海軍音楽隊などの演奏によるクリスマスソングも聴けたりとバラエティ豊かなので、ぜひクリスマス前に覗いてみることをお勧めします。

参考:
NORAD Tracks Santa
Twitter @NoradSanta
facebook『NORAD Tracks Santa』
Google+『NORAD Tracks Santa』
FAA(アメリカ連邦航空局)サンタクロースサイト

(文:咲村珠樹)

【ミリタリーへの招待】海上自衛隊の「カメラマン養成機関」潜入!

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「海上自衛隊の歌姫」こと、海上自衛隊東京音楽隊の三宅由佳莉3曹が人気になっていますが、コンサートで熱唱する写真を見て、誰が撮っているんだろうと思ったことはありませんか? 音楽隊のコンサートをはじめ、海賊対処や災害派遣など、様々な活動を伝えるものとして海上自衛隊から提供される写真や映像を撮影しているのは、実は同じ海上自衛隊員。写真やムービー撮影を任務とする、通称「写真員」という人々です。いわば「自衛隊所属のプロカメラマン」。今回はその写真員を養成する学校をご紹介しましょう。

写真員を養成するコースが設けられているのは、千葉県柏市にある海上自衛隊第3術科学校。哨戒機P-3Cの乗員を養成する下総航空基地内にあり、主に航空機や航空基地に関係する要員を養成する学校です。

ここで、なぜ海上自衛隊にカメラマンがいるのか、そして航空関係の学校で養成されているのかについて、少々ご紹介しましょう。

写真員の歴史は、海上自衛隊の草創期から始まります。元々写真員は、航空機による「航空写真偵察」における要員として誕生しました。上空から写真を撮影し、何か脅威になるものがないかを確認するという任務です。史料室には、かつて教育で使われていた航空写真機が展示されています。

【関連:下総航空基地でパイロットも舌鼓をうつ金曜カレー食べてきた】

教材として使われたカメラ達


ひときわ大きいドイツ製の航空写真機は、国土地理院で航空測量用としても使われていた比較的ポピュラーなもの。高精細な写真を必要とする為に原版のサイズも大きく、縦横23cmもあります。小型のものは写真の世界で「シノゴ」と呼ばれる4インチ(10.16cm)×5インチ(12.7cm)という画面サイズ。重さも数kgあり、これを持って撮影するのは大変ですね。

ドイツ製の航空写真機
4×5航空写真機

航空部隊と共に活動する機会が多いので、養成機関も航空関係と同じ場所で……という経緯なのですね。

しかし現在では機器の進歩や任務内容の変化もあり、主に航空機から撮影を行うのは搭乗している武器員だとか。写真員は広報や隊内で必要とされる各種写真・ムービーを手がけるなど、より広範な任務へと内容が変化しています。航空機はもちろん艦艇、さらに南極や海外の演習や災害派遣など、海上自衛隊が活動する全てのフィールドに写真員の姿があるといっても過言ではありません。

第3術科学校の写真科では、部下の写真員を指揮して任務を達成させる「幹部専修科写真課程」、写真やムービーの制作などを現場で行う海曹士向けの「海曹士専修科写真課程」「海曹士専修科ムービー課程」が設置されており、それぞれ経験豊富な教官が少数精鋭の学生に対して指導を行っています。教場内に掲示されたポスターに

「写真業務は誰にでもできる仕事じゃない! 誇りを胸にシャッターを切れ!」

という写真員としての矜持を示す言葉があったのが印象的でした。この職業意識は結構重要です。

教場にはスタジオや暗室があります。スタジオライティングはやればやるほど奥の深いものなので、みっちり学んでおくと「光の振る舞い」をより理解できて、屋外撮影にも応用が利くんですよね。現在写真員の取り扱う器材はほとんどデジタル化されているのですが、一部フィルムを使用しての業務がある為に、必ず銀塩写真も教えています。

撮影実習講堂

暗室に入ると、停止液に使う酢酸や現像液の匂いが染み付いていて、キレイに整頓されているのですがほんのり香ってきます。引伸機や竹ピンセット、フィルム用の現像タンクなど、見慣れた暗室用品を見ていると思わず学生時代を思い出して懐かしい気持ちになりました。

モノクロ暗室

デジタル化された写真やムービーを取り扱うパソコンも。画像・ムービー編集用のソフトは、勤務場所が変わっても困らないように、全国でおおむね同じものが使われているとか。ただ、毎回バージョンアップするだけの予算は取れないので、我々民間で使われているものよりは古いものになっているそうですが……。毎年のようにバージョンアップするソフトもあるので、教材の更新はデジタル時代になって大変そうです。

画像編集用のパソコン

教育は理論を学ぶ座学もありますが、即戦力となる写真員を養成する為、実習を重視しています。写真員の実務に即し、実際にあり得る撮影テーマを設定して、学生に撮影から作品制作までを行わせ、それを教官が評価して次の課題へ……というサイクル。この学校の内部だけでなく、同様の任務を持つ自衛隊の部隊(陸上自衛隊の第301映像写真中隊など)や、民間の施設へ出て、幅広く知識や技能を習得することもあるそうです。

廊下や階段には写真員による作例も展示されています。自衛隊全体で行われる全自衛隊美術展で、最上位の賞に入賞した作品も。

廊下に掲示された作例写真
写真員による美術展入賞作

取材にお邪魔した時は、第2501期海曹士専修科写真課程の学生が実習中。同じ第3術科学校にある施設科課程の学生実習を記録し、まとめるという作業をしていました。

担当教官は、第3術科学校写真科に来て6年目の鈴木3曹。学生の主体性を基本にしつつ、的確なタイミングでアドバイスを送っていました。

実習風景

教官が重視しているのは「自分の作品を作る」のではなく、依頼の内容に応じて「求められているもの」を的確に把握し、撮影するということ。自分中心ではなく、依頼者の意をくんだ写真やムービーを撮るという、プロとしての心構えを伝えているとのことでした。だからこそ、実習では「◯◯の依頼で◯◯を作成する」という具合に細かくシチュエーションやテーマを設定し、撮影をさせるのだとか。

撮影実習では、まだ撮影経験の浅い学生が、限られた構図やカメラポジションで撮影していることがあったりするそうです。そういう時は「ここから撮っても面白いんじゃない?」などと、学生の創作意欲を摘まないよう留意しつつ「別の視点」をさりげなく助言するとか。「指導」ではあっても「指示」にならないようなさじ加減は、なかなか難しいところですね。

職務上、写真の任務がある為この専修課程に入ったという海士長の学生さんは、それまで写真は携帯で撮る程度でカメラを持っての本格的な撮影は初めてだったとか。自分の意図でもって様々な写真が撮れるのが新鮮だったそうです。
「携帯では『写る』って感じですけど、カメラは自分の意思で『撮る』って感じですね」
世の中にあふれる様々な写真をただ見るだけでなく、どう撮ったのか、というカメラマン目線で見るようにもなったといいます。現在はスナップショットなど、自分で被写体を見つけながら撮影する手法が得意だそうで、将来は海外派遣の記録や、ヘリコプターに乗っての空撮などをしてみたいとか。

学生にアドバイスする教官

電測員(レーダーなどの情報を取り扱う職種)から転じ、この専修科課程に入校したという2曹の学生さんは、以前ヘリコプター部隊に所属していた際、写真撮影の任務を行ったことがあったそうです。その時は知識も乏しく、経験も浅かったので、撮影に関してなかなか応用が利かなかったこともあったそうですが、改めてこの課程で基礎から学ぶことによって応用の仕方が判るようになり、当時どうすれば良かったのかが理解できたといいます。また、デジタルと違ってその場で結果が判らない、フィルムによる銀塩写真を経験したことにより、一枚一枚の撮影を大切に行うようにもなったとか。結構大胆な性格で、カメラを持つと撮影に集中するあまり「ズンズン行ってしまう」そうで、時折「それ以上行くと危険だぞ」とたしなめられることもあるそうですが、将来は八戸基地の第2航空隊が行っている、P-3Cによる海氷観測の撮影をしてみたいと希望を語ってくれました。

画像を編集する学生

養成課程を修業し、写真員として配属されると、部外用の広報写真をはじめ、任務やイベントの記録撮影などを行います。見えないところでは、身分証明書用の写真や艦内などに掲示される隊員の肖像写真なども。

また、艦艇や施設に掲示される啓発用や、隊員の士気を高めるポスターの制作なども行います。階段には第3術科学校の学生達が参加した自衛隊記念日観閲式のポスターもありました。

廊下に掲示されたポスター
広報ポスター
観閲式の啓発ポスター

海上自衛隊はFacebookのページやYouTubeの公式チャンネルを持っており、そこで各地の写真員が撮影・制作した写真やムービーを見ることができます。海上自衛隊公式カメラマンによる数々の力作、ぜひご覧になってくださいね。

Facebook:防衛省 海上自衛隊(Japan Maritime Self-Defence Force)
YouTube:JMSDF海上自衛隊チャンネル

■取材協力:防衛省 海上幕僚監部 広報室・海上自衛隊第3術科学校

【建物萌の世界】第26回 騎兵の記憶と空の神兵

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こんにちは。様々な建物や街並に萌える「建物萌の世界」。今年、2014年は午年なので、馬に関係ある建物に行ってみましょう。

陸上自衛隊の第一空挺団が拠点を置く、千葉県船橋市の習志野駐屯地。この場所での陸軍大演習を視察した明治天皇によって「習志野」と命名された、いわば習志野発祥の地です。ここにはかつて陸軍の騎兵学校がありました。1932(昭和7)年のロサンゼルスオリンピックで、日本馬術史上唯一の金メダリストとなった「バロン西」こと西竹一も学んだ学校です。筆者にとっても、祖母の弟がここで学んでおり、縁のある場所でもあります。

この一隅に、その騎兵学校時代を伝える建物が残されています。玄関の上にバルコニーがある、コロニアル様式風の姿が印象的な「空挺館」です。

【関連:第25回 『青い花』の学び舎】

空挺館全景


建物は木造2階建て。窓が多く、特に2階部分のバルコニー周辺は非常に明るい印象です。

窓の多い2階部分

もともとこの建物は1911(明治44)年、明治天皇が学生の馬術教練や終業式の様子を展覧する為、東京・目黒にあった騎兵実施学校敷地内に建てられたもの。当時は「御馬見所(ごばけんじょ)」という名前でした。1916(大正5)年に騎兵実施学校が現在地の習志野原に移転したことに伴い、この建物も移築されて迎賓館として使用されました。同年、騎兵実施学校は騎兵学校と名称が変更されます。この御馬見所へは専用の門が設けられており、現在もレンガ造の姿が残っています。天皇の行幸や皇族来訪の際には、正門ではなくここから車を乗り入れ、最短距離で建物へアクセスできるようになっていました。

専用門と空挺館

目黒にあった頃の姿を見ると、1階部分は石の階段などがあり、正面玄関の柱も細く屋根にも千鳥破風があるなど、現在とは随分違います。これは建物を解体し、部材ごとに分けて移送する際、基壇部の石材が重過ぎて地盤の悪い江戸川を渡ることが困難で、やむなく各所の設計変更を行った……という話が伝わっています。使われなかった石材は、隣接する庭園の池などに使用されているとか。

目黒時代の姿

玄関ポーチの天井は格天井で、入口は付け柱にペディメント(三角破風)が載った格式の高いもの。天皇の為に作られたことがよく判ります。設計者は不詳ですが、宮内省の助言を受けて陸軍内で設計したようです。

玄関の装飾

中に入ると、正面に吹き抜けの階段ホール。この階段は糖尿病などで体力が低下していた晩年の明治天皇に配慮し、勾配の緩やかな「帝王階段」となっています。負担が少なくなるよう、最短距離で御座所まで向かう為の動線が作られています。

1階階段ホール

この階段、踊り場から先は天皇や皇族専用となっていました。それ以外の侍従や接待役などの人間は、踊り場にある扉の奥に設けられたサービス用階段で2階まで登るようになっています。現在、この階段は公開されていませんが、登った先は第一空挺団の殉職者を紹介する部屋に通じています。

踊り場にあるサービス階段への扉

建物の内部を見渡してみると、構造を担う通し柱が見当たりません。馬が走り回る為、柱のない広い空間を必要とする覆馬場(雨など天候に影響されず乗馬ができる屋根付きの屋内馬場)の構造を応用して建てられているのです。お陰で、広い空間と自由な間取りを実現しています。

天皇を迎える建物ということで、室内各部屋の入口にもそれぞれペディメントが載っており、一見過剰なまでの重厚感。模様ガラスも入っています。

内部装飾の数々 入口欄間には模様ガラス

もちろん天井は格天井で、各所にレリーフもあしらわれています。このレリーフは、和紙を木彫りの型に押し付けて型取りをし、その型に漆喰を流し込むという手法で作られたもの。通常のコテ細工より細かい風合いを表現することができ、今では再現不能なものだそうです。

天井の漆喰レリーフ

装飾は全て西洋風という訳でもなく、欄間などには近代和風の透かしも見られます。

和風意匠の欄間

2階に上がると、正面に御座所。この天井も格天井ですが、さらに高貴な色である紫が使われています。ここに展示されている椅子は、最寄りの省線(現JR東日本)津田沼駅の貴賓室で使用されていたもの。

2階御座所

窓の下には菊花紋章が。ただし、いくつかは天皇の紋である十六菊ではありません。というのも、全て十六菊にしてしまうとその場所は「天皇専用」となってしまい、他の皇族が来訪しても中に立ち入れなくなってしまう為、わざと花弁の数をひとつ減じているのだとか。

16菊の装飾 15菊の装飾

御座所の両側は幅の広い廊下になっており、おそらく他の人間はここに並んで演習を視察したのでしょうね。

御座所脇の廊下部分

戦後、この騎兵学校には連合軍が進駐し、キャンプ・パーマーとなりました。御馬見所は司令官の執務室や士官のラウンジとして使用され、その際扉にペンキで表記などがなされ、現在でもその跡を見ることができます。同様のことは連合軍に接収された皇室用客車にも行われており、現在さいたま市の鉄道博物館で展示されている10号御料車(展望車)の車内には、進駐軍専用列車オクタゴニアン時代に白ペンキで記入されたドア表記が残っています。

ドアに残る進駐軍時代の文字

また、後年の修復の際に、士官ラウンジとなっていた部屋の天井裏から、アメリカ製のビールなどの空き缶が見つかっています。……マナーの悪い人が隠したんですね。

ビールの空缶

御馬見所は、陸上自衛隊習志野駐屯地となった後の1962(昭和37)年に「空挺館」と命名され、現在は1階部分に第一空挺団の歴史を紹介する資料展示、2階は旧日本陸海軍の空挺部隊の歴史資料と、陸軍騎兵学校の歴史資料を展示する資料館となっています。数年前までは、すぐ近くに騎兵学校時代の覆馬場が倉庫として活用されていたのですが、老朽化によって取り壊され、現在新しい建物が建設中です。

騎兵学校時代からの建物は、この空挺館だけになりました。現在1月の降下訓練始め、4月の駐屯地創立記念日をはじめとした駐屯地一般開放日を中心に、年数回一般開放しており、見学することができます。詳しい日程については、第一空挺団の公式サイト「イベント情報」ページで告知されるので、機会があれば展示されている資料だけでなく、天皇を迎える為に作られた建物自体も鑑賞してみてくださいね。

■陸上自衛隊第一空挺団
http://www.mod.go.jp/gsdf/1abnb/

(文・写真:咲村珠樹)

【宙にあこがれて】第40回 航空機じゃない!? 知られざる無人機の世界

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2013年12月に策定された防衛計画大綱や中期防衛力整備計画において、無人偵察機の導入が検討されたり、2014年度にアメリカ空軍の無人偵察機RQ-4グローバルホークが、青森県の三沢基地に一時配備されるなど、無人機に対する世間の関心が高まっている昨今。ここで無人機について、ちょっとおさらいをしておきましょう。

無人機とはその名の通り、人間が搭乗して操縦しない航空機のことです。古くからドローン(Drone)と呼ばれていましたが、現在ではUAV(Unmanned Aerial Vehicle)と呼ばれたり、地上設備を含めた運用システム全体を指してUAS(Unmanned Aircraft Systems)と呼ばれることが多くなっています。一般的に、人間が乗った航空機では危険な場面や、負担の大きい任務で使用されるものです。

本格的な無人機が登場したのは、第二次世界大戦中。飛行爆弾V1(フィーゼラーFi-103)を航空機とするか誘導爆弾とするかは見解の分かれるところですが、自在に飛行をコントロールできる訳ではないので「本格的な無人機」とは言えないでしょう。これを除けば、アメリカで無線操縦の標的機が運用されています。アメリカ国立公文書記録管理局(ナショナル・アーカイブ)には、テキサス州フォートブリスにおいて、対空射撃訓練で無人標的機を運用する様子を撮影した、1943年制作の記録フィルム(‪War Dept Film Bulletin 58‬)が収蔵されています。

【関連:第39回 コミケを超えた!? 入間航空祭】

■War Dept Film Bulletin 58‬: Radio Target Plane 1943(National Archives Identifier: 24466)
http://www.youtube.com/watch?v=woTcOTDxfec

射撃の的になる標的機は、有人機の場合バナーと呼ばれる吹き流し式の標的を曳航することが一般的ですが、それでも誤って標的ではなく曳航機を撃墜してしまうケースがあるので、無人機に最も適した用途でした。これなら直接「撃墜」しても大丈夫。

海上自衛隊ファイヤービー改 海上自衛隊チャカIII

標的機は最も古い無人機の用途として、現在でも運用されています。海上自衛隊ではBQM-34AJ改「ファイアービー改」と、MQM-74「チャカIII」という2種類の無人標的機を保有しており、訓練支援艦くろべ(ATS-4202)とてんりゅう(ATS-4203)で運用しています。どちらもジェット推進で、発進する時にロケットブースターを併用します。

■BQM-34 Firebee High Performance Aerial Target System Launch(映像:Northrop Grumman)
http://www.youtube.com/watch?v=vW2NDtae0Qk

■BQM-74E Aerial Target(映像:Northlop Grumman)
http://www.youtube.com/watch?v=2alztBBH7wc

大きなファイヤービー改は戦闘機や攻撃機といった固定翼機をシミュレートするもの、小型のチャカIIIは対艦ミサイルや巡航ミサイルをシミュレートするものとして、訓練に使用されています。もちろん無線操縦で自在に飛行することが可能。射撃側は直接狙う訳ですが、発射するのは実弾ではなく、発信器が内蔵された演習弾。その電波を標的機側でモニターしており、弾頭が近接信管作動距離を通過した場合に「撃墜」判定を出すしくみです。

標的機とはいえ高価な装備品の為、直接撃墜されると大変なので、射撃演習は標的機側も直撃されまいとテクニックを駆使した真剣勝負。訓練支援艦の格納庫には、のべ発射機数と撃破されずに無事回収できた「完全飛行」の数字が掲示されており、発射機数に近い完全飛行回数が並んでいるのは、標的機運用側の優秀性を示すものですね。

格納庫の実績表示

陸上自衛隊でも、対空ミサイルなどを扱う高射特科でチャカ標的機を保有しており、北海道の静内駐屯地に隣接した演習場で運用しています。

この他にも、ミサイルの評価試験を行う為には小型の標的機では大きさが不十分で、実際の戦闘機などを改造した原寸大の無人標的機(フルスケール・ドローン)が使われています。現在アメリカ空軍では、規定の飛行時間を過ぎて運用を外れたF-16を改造した無人標的機、QF-16の導入が進められています。

‪■GoPro: Boeing’s QF-16 goes unmanned‬(映像:Boeing)
http://www.youtube.com/watch?v=E_A_rEZoXSg

日本の航空自衛隊でもかつて、退役したF-104Jを改造した無人標的機、UF-104JAを小笠原の硫黄島で運用していた時期がありました。現在は1機(76-8698号機)だけ、浜松の航空自衛隊浜松広報館「エアーパーク」に保存され、残りの機体は任務を全うして(撃墜されて)います。

標的機の他、無人機が多く使われているのは偵察の分野。敵に撃墜される危険性が高い戦術偵察や弾着観測、人間の体力の限界を超える長時間の滞空偵察などに用いられます。陸上自衛隊ではヘリコプター型の無人機、遠隔操縦観測システム(Flying Forward Observation System:FFOS)などを保有し、運用しています。

遠隔操縦観測システム

遠隔操縦観測システムはコンピュータによる完全自動制御で、発進台となるトレーラーから離陸した後、事前にプログラムされたルートを飛行し、また自動で帰還するというもの。緊急時には手動の遠隔操作で飛行することもできます。

防衛装備や軍用だけでなく、無人機は民間の分野にも。日本では民間の無人機の方が遥かに多い状態です。

一番多く使われているのが、農薬の空中散布用に使われる無線操縦の小型ヘリコプター。ヤマハが最大手で、各農業機械メーカーにもOEM供給しています。この他、富士重工から遠隔操縦観測システムの民生型もリリースされています。

そして、最近多くなってきたのが空撮用の小型無人機。ソチオリンピック中継の空撮映像(フリースタイルスキー・スノーボードのスロープスタイルや、スノーボードクロス・スキークロスなど)でも活躍していました。様々な種類があり、安いものではカメラ込みで20万円しない機体もあります。

空撮用小型クアッドコプター

また、研究・観測用にも無人機が活用されています。気象庁の気象研究所では、台風の中でどのようなことが起きているのか観測する為に、無人観測機エアロゾンデを台風に突入させて観測する研究などを行っていました。かつてアメリカでは、有人のB-29をハリケーンに突っ込ませて観測したことがありましたから、このような危険な任務には無人機が最適です。

気象研究所のエアロゾンデ

国立極地研究所でも無人機を使った気象観測を研究しており、2008年に世界で初めて南極地域における無人機による長距離気象観測に成功しています。

この他にもJAXA航空本部で、様々な無人機が研究されています。お椀のような形をしたダクテッドファン式の機体は、自動制御で垂直離陸し、周囲の観測を行う飛行ロボットとして研究されているもの。担当者によれば「農家の人が軽トラの荷台に載せてって、飛ばすことで田んぼや畑の管理が省力化できたら」ということでした。

ダクテッドファン式飛行ロボット

この他にも、新しい形の航空機の実験として、櫛形配置のティルトウィング式主翼をもつ4発の垂直離着陸機QTW(Quad Tilt-Wing)の研究で無人機を使用しています。新しい形の航空機の場合、飛行試験までに様々な問題点がある為、人間を乗せる実験機をいきなり作ると、墜落などの危険が伴います。高精度なデータを取得できる無人機で、ある程度問題をクリアしておき、人を乗せても大丈夫……という段階まで開発を進めるというのも、無人機を使用するメリットです。

QTW風洞試験模型

さて、様々な無人機の紹介をしてきましたが、現在大きな問題が無人機にはあります。実は「無人機とは何か」が、法律で規定されていないのです。

航空法を見てみると

第二条 この法律において「航空機」とは、人が乗つて航空の用に供することができる飛行機、回転翼航空機、滑空機及び飛行船その他政令で定める航空の用に供することができる機器をいう。

とあります。つまり、人が乗らない無人機は「航空機」ではないのです。という訳で日本国内では、一般的な航空機と同じように無人機を飛ばすことはできません。航空法第81条、および航空法施行規則第174条にある、一般の航空機が飛行する最低安全高度に達するまで上昇することは許されませんし、飛行場周辺では離着陸の妨げとなる為に飛ばせません。

航空法施行規則:
第百七十四条 法八十一条の規定による航空機の最低安全高度は、次のとおりとする。
一  有視界飛行方式により飛行する航空機にあつては、飛行中動力装置のみが停止した場合に地上又は水上の人又は物件に危険を及ぼすことなく着陸できる高度及び次の高度のうちいずれか高いもの
イ 人又は家屋の密集している地域の上空にあつては、当該航空機を中心として水平距離六百メートルの範囲内の最も高い障害物の上端から三百メートルの高度
ロ 人又は家屋のない地域及び広い水面の上空にあつては、地上又は水上の人又は物件から百五十メートル以上の距離を保つて飛行することのできる高度
ハ イ及びロに規定する地域以外の地域の上空にあつては、地表面又は水面から百五十メートル以上の高度
二  計器飛行方式により飛行する航空機にあつては、告示で定める高度

現在、この最低安全高度を超える形で無人機を飛ばすには、その都度無人機を運用する期間(日時)や区域を決めて、空域を管轄する機関(自衛隊の訓練空域は航空自衛隊、アメリカ軍の訓練空域は在日アメリカ軍司令部、それ以外の空域は国土交通省航空局)に申請し、許可を受けなければなりません。そして周辺を飛行する航空機に対して「無人機が飛ぶので気をつけて」と注意情報(NOTAM)が出されます。これは自衛隊の無人機であっても同様です。

アフガニスタン等で運用されているアメリカ軍の無人機は、詳細は明らかにされていませんが「戦場」として、他の民間機が入らない飛行禁止区域を設定した上で運用されていると考えられます。福島第一原発事故の際に、無人機を飛ばして原子炉の様子を観測した時も、周辺に飛行禁止区域が設定されていた為に、自由な飛行が可能でした。

無人機を本格的に運用するには、航空法を改正する必要があります。ただ、そこにも問題が山積しています。

まず、有人機の飛行する高度・空域を安全に飛ぶ為には、航空管制を受ける必要があります。航空管制では、レーダーで機体が識別できるよう、空域を管制する機関から割り振られた「スコーク」と呼ばれる識別符号を発信する機械(トランスポンダ)が必要なのですが、現在これを搭載した無人機はありません。レーダー画面では、正体不明の飛行物体(UFO)と認識されます。

また、航空管制では管制官と音声通信をして飛行することが義務づけられていますが、その為の通信機も無人機は装備していません。このままの状態で無人機が飛ぶということは、スクランブル交差点を目隠ししたまま、誰ともぶつからずに渡るのと同じような状態なのです。

そして、これら無人機の取り扱いについて、国際的な合意がなされていないのが実情です。日本の国内法である航空法を改正したとしても、国際的な取り決めがない状態では、他国の機体に独特な「日本仕様」を強いることになり、あまり有益ではありません。

これまで以上に無人機が広く利用されるようになるには、早期に国際的な取り決めがなされ、関連する法令が整備されることが望まれますが、まだその道のりは遠そうです。それまで、無人機は大きな能力と可能性を持ちながらも、様々な制約の中、運用されることになります。

(文:咲村珠樹)

【宙にあこがれて】第41回 飛行機の単位いろいろ

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飛行機に関係する様々な数値。そこには我々が普段使っている単位の他、独特のものもあります。中には同じものをはかるのに複数の単位を使っていたり。ちょっと混乱してしまうこともあるのですが、今回はそんな「飛行機にまつわる単位のいろいろ」についてご紹介しましょう。

まずは空気(風)の力によって飛ぶ飛行機にとって欠かせない風速。天気予報など、一般にはメートル(m/秒)を使っていますが、飛行機ではノット(knot=kt。海里/時)を使います。これは航空の世界ではありがちな、船の用語をそのまま持ってきたようです。帆船の時代、風速はそのまま船の速度に直結します。そんな訳で、船の世界では風速も船の速度も同じ単位を使っているんですね。

飛行機でも、飛行に必要な「対気速度(Air Speed)」はノットを使っています。翼にどれだけの風が当たっているか、の目安が対気速度ですから、風速と同じ単位を使う方が判りやすいからですね。……もっとも、旧日本陸軍の飛行機では、陸の単位を基準としていたのか、それともメートル法のふるさとであるフランスを手本にしたせいか、km/時を用いていたようです。旧日本海軍では、船の速度単位であるノットを使っていました。

【関連:第40回 航空機じゃない!? 知られざる無人機の世界】

ノット表記の対気速度計

ノットは「1時間に何海里進むか」という単位なので、距離を示す際も海里(nautical mile=nm。約1.8km)を使っています。通常「マイル」という時は、この海里(ノーティカルマイル)を指しているのですが、アメリカのパイロットなど、時々陸のマイル(約1.6km)を使って話をしてくるので、微妙に誤差が出てきます。あれ? と思った時は「land mile」か「nauticai mile」なのか、確認が必要です。ちなみに航空会社のマイレージは、陸のマイルを基準にしています。

船の基準を航空に応用した、という点では、他に針路を表す方位があります。船の航法では、北を基準(0/360度)として時計回りに何度ズレるか……という形で針路を表します。飛行機でも同じで、航空管制では「針路を090に(本来は英語です)」と言われると、それは「真東(北から時計回りに90度ズレた方向)へ機首を向けなさい」という意味になります。これは飛行場で吹いている風の方角も示す際も同様。滑走路の伸びる方角と風の方角が異なっている場合、自分の速度と風速によって、パイロットは機体がどれだけ流されるのか、という計算をすることになります。

また、これとは別に、相対的な方角を示すものとして「時(o’clock)」も使います。これは進行方向正面を時計の文字盤の12時として、どの方角に他の飛行機や目標物があるかを指し示すものです。「3時」と言えば右の真横、「6時」と言えば真後ろに当たります。戦闘機では、真後ろに回り込まれることは撃墜の危険を意味するので「チェック・シックス(6時方向注意)」というのが合い言葉。

ちょっと複雑なのが、燃料をはかる単位。飛行機を運用する時には、燃料は重さで表現します。通常はポンド(lbs)を使いますが、キログラム(kg)やトン(t)を使う時も。

燃料補給のタンクローリーと旅客機

これにはちょっとした理由が。液体である燃料は、温度によって体積(密度)が変化します。それに対し発生する熱量は、燃料に含まれる炭化水素の分子量(質量)に比例します。炭化水素が燃焼し、発生したガスの力(量)が推力となる飛行機の場合、重要なのは燃料の体積ではなく、炭化水素の分子量(質量)なので、重量を基準としているのです。

また、燃料や積み荷を合計した機体の全重量によって離陸重量は決まりますし、同時に離陸決心速度(V1)や機首引き起こし速度(VR)などが算出されるので、運用上、燃料は重量で表現した方が都合がいいんですね。

貨物を積み込む旅客機

しかし、石油会社からの請求書は「給油量(体積)」で計算されるので、そちらではリットル(キロリットル)やガロンといった単位が使われています。機体設計上の燃料タンク容量も同様です。体積が小さくなる寒い場所で給油した方がお得なのですが、世界中を飛び回るエアラインでは、そうもいかないのがつらいところ。結局、トータルで見ると体積と重さは平均化されているようです。

タンクローリーと燃料タンク

飛んでいる高度(フライトレベル)を表すのはフィート(ft。約0.3m)。これも航空管制では単位を省略して話すので、暗黙の了解になっています。これは航空機の気圧高度計を使った値で、気圧29.92水銀柱インチ(inHg)/1013.2ヘクトパスカル(hPa)を高度0として換算したもの。厳密な海抜高度とは違いますが、飛行中は気圧高度計で高度を見ているので、これを基準として採用しているという訳です。離着陸時は、滑走路の海抜高度との誤差を修正する為、必ず飛行場管制から現在の気圧の値から算出された高度規正値(QNH)を取得することになっています。この規正値はinHg(水銀柱インチ)で表現されるのが一般的です。

ただし、この単位も中国やモンゴルなど、旧ソ連の影響を受けた国ではメートル法を採用しており、航空管制でも飛行高度をメートルで指定されます。フィートとはズレが出るので、これらの国の管制圏に入る時は若干の上昇・降下をして、飛行高度がメートル単位になるよう高度調整をしています。

航空の分野ではイギリスやアメリカが主導的な役割を担ってきたせいか、日本で一般的に用いられるメートル法でなく、ヤード・ポンド法の単位系が一般的。なので、パイロットら航空関係者は、機内アナウンスなど一般の人に話す時、ヤード・ポンド法の単位系から、判りやすいようにメートル法の単位系に換算しています。地味に暗算能力も必要なんですね。

(文・写真:咲村珠樹)

【建物萌の世界】第27回 知られざる「艦これ」聖地・横須賀鎮守府司令長官官舎

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「艦これ」の聖地として、多くの提督(プレイヤー)が訪れる神奈川県横須賀市。その高台に、海を見守るように建つ海軍ゆかりの建物があります。大正時代に建てられた、かつての横須賀鎮守府司令長官官舎です。今回はその建物をご紹介しましょう。

【関連:第26回 騎兵の記憶と空の神兵】

分庁舎正門

旧海軍横須賀鎮守府司令長官官舎は、現在は海上自衛隊横須賀地方総監部が管理する「田戸台分庁舎」となっています。建てられたのは1913(大正2)年。設計に当たったのは、横須賀鎮守府経理部建築課長だった桜井小太郎と技師富田喜久二。洋館部と和館部が接続した、和洋折衷の建物です。洋館部は屋根裏付きの平屋建て、和館部は一部二階建てとなった木造建築。洋館部は構造材が外壁に露出したハーフティンバーと、石張りの基礎と暖炉の煙突が特徴。いわゆる「チューダー様式」的な雰囲気になっています。桜井は日本人で初めて英国公認建築士の資格を得た人物なので、そのノウハウが活かされた建物と言えるでしょう。

旧横須賀鎮守府司令長官庁舎

この建物の建設にあたって、大きな役割を果たしたのは桜井小太郎だけではありません。建設を決めたのは、当時の横須賀鎮守府司令長官だった瓜生外吉。瓜生は日本人で初めてアナポリスのアメリカ海軍兵学校を卒業した人物で、夫人の繁子も明治政府の第1回海外留学生として津田梅子、大山捨松らと共にアメリカへ留学した経験があり、海外生活経験が豊富でした。イギリス、アメリカと欧米の生活や建築に精通した人物が同時期に横須賀にいたことで、このような建物が誕生したと言えそうです。

イギリス的雰囲気

残念ながら、瓜生は完成の前年に横須賀鎮守府の司令長官を退任したので、住人として入居することはありませんでした。最初の住人となったのは、当時横須賀鎮守府艦隊司令官だった東伏見宮依仁親王。東伏見宮もフランスのブレスト海軍兵学校を卒業し、イギリス留学の経験もあったので、洋式の生活に慣れていたことと、皇族であることが考慮されたのでしょうね。どうもこれは使い勝手を確認する「お試し入居」だったらしく、およそ1ヶ月後には横須賀鎮守府司令長官の山田彦八が入居しています。

庭から見ると、大きな亜鉛葺き切妻屋根の組み合わせに、張り出した六角形のベイウインドウ(出窓)、そして明かり取り用の四連窓が印象的。庭に下りるサンルームの上部には、先の尖ったチューダーアーチが。

庭からの外観

庭に向かっては、もうひとつ、大きなベイウインドウがあります。

庭に面した出窓

また、日本に於けるステンドグラスの先駆者、小川三知の作品が各所にあります。ごく初期の作品で、大変貴重です。

正面四連窓のステンドグラス 食堂のステンドグラス

和館との接続は、違和感のないように配慮されていますが、なんとなく「西洋建築の方法で作られた和風建築」という感じの雰囲気も。洋館と較べると、ちょっと不思議な感じです。

洋館に繋がる和館

この建物、1945(昭和20)年に横須賀鎮守府が廃止されるまで、34代(31人)の司令長官の居宅となりました。主だった人物を挙げると、司令長官となって再び入居した東伏見宮の他、後に首相となり二・二六事件で襲撃された岡田啓介、真珠湾攻撃時の駐米大使となった野村吉三郎、海軍大臣を経て真珠湾攻撃時の軍令部総長となった永野修身、後に首相や海軍大臣を歴任し、終戦工作に奔走した「帝国海軍の幕引き役」米内光政、連合艦隊司令長官在任時に「海軍乙事件」で殉職した古賀峯一、『ウルトラマン』等特撮作品の監督で知られる実相寺昭雄の祖父である長谷川清など。そうそうたる面々ですね。

野村吉三郎像

戦後はアメリカ海軍に接収され、今度は1964(昭和39)年まで在日アメリカ海軍司令官等9人の官舎となりました。この時に内外装とも様々な改修がなされ、外観は白い下見板張となり、内装も白が基調となったものに変更されています。1969(昭和44)年に日本の防衛庁に移管され、以来海上自衛隊が管理しています。長らく活用されていなかったのですが、1990年代に復元(改修)され、現在はアメリカ軍をはじめとする国内外の高官・要人をもてなすレセプションなどに使用されています。

アメリカ軍接収時代の改修と、再活用する為の復元工事で潤沢な予算が割けなかったこともあり、現状で使いやすくするという形になった為に、戦前の姿への完全な復元はできませんでした。この為オリジナルの姿とは違う部分も多々ありますが、残された調度品などに往時をしのぶことができます。

内部に入ると、簡略化されたペディメント風の装飾が施された玄関。向かって左は応接室として使われた部屋、右には食堂と居間があります。奥へ進むと和館(和室)。

玄関

完成当初は応接室として使用されていた部屋は、現在は記念館となっています。机が置かれ、いかにも「司令長官の部屋」といった雰囲気。

記念館

部屋にある家具と暖炉は当時のもの。暖炉の開口部は日本的な火灯窓風のデザイン。家具にはステンドグラスがあしらわれています。

暖炉と家具
火灯窓風の暖炉 ステンドグラスの装飾

現在もレセプションの会場として使用されている食堂。壁には東郷平八郎による「集気海(海に気集まる)」の書が掲げられています。奥の家具には、同じく東郷平八郎の銅像が。中には、江戸幕府初の蒸気船にして長崎海軍伝習所の練習船だった観光丸の模型が収められています。レセプションなど、こちらで食事会が行われる際は、海上自衛隊横須賀地方総監部の給養員が調理を担当するとか。厨房は現代風に改装されています。

食堂
東郷平八郎の書 食堂の家具

東郷平八郎の銅像「此一戦(このいっせん)」は、日本海海戦に於いて戦艦三笠の露天艦橋で戦況を見守る様子を題材とした作品。右手に双眼鏡、左手に軍刀を持ち、鋭い目で遠くを見やる姿が威厳を感じさせます。

食堂の東郷像

食堂に続く居間にはソファが置かれ、くつろいだ形で歓談できるようになっています。壁には横須賀の古い海図。ここにある暖炉は大幅に改修されていますが、終戦までは上部に小川三知が制作した、クジャクのステンドグラスがありました。アメリカ軍接収後の改装で取り外され、鏡が設置されたそうですが、現在は開口部を除いてタイルと木レンガによる装飾に置き換えられています。

居間 暖炉上にあったステンドグラス

この居間には、スタインウェイ社(ドイツ製)のピアノがあります。これは元々、海軍の従軍カメラマンだった男性が赴任していた樺太から1925(大正14)年に日本へ帰還する際、ロシアの女性から譲ってもらったもの。軍艦で横須賀まで移送し、二人の娘さんが練習に励んでいたそうですが、1929(昭和4)年に市内の繁華街で写真館を開業する為に引っ越した際、ピアノが大き過ぎて新居に入らず、縁のあった海軍に寄贈したという品です。戦後ずっと忘れられていたのですが、貴重なものと判明したのでスタインウェイに復元を依頼し、修復したそうです。レセプションで音楽隊のピアノ奏者が演奏したりする他、この分庁舎で開催されるミニコンサートなどで使用されています。一般にも無料で貸し出しがされるとか。

ドイツ製スタインウェイのピアノ

和室部分はすっかりキレイになっていて、まるで旅館の一室のよう。かつての様子を想像するのは難しいのですが、アメリカ海軍の司令官官舎だった時代は、この和室に大きなベッドを入れ、寝室として使用していたというから驚きです。

和室

和室の床の間にも、東郷平八郎の書が掛け軸としてかかっています。

床の間にかかる東郷平八郎の書

この建物には、様々な資料も展示されています。建設間もない大正時代のものでは、1915(大正4)年12月4日に横浜沖で行われた「御大礼特別観艦式」に際して、当時の第2艦隊司令長官名和又八郎に送られた午餐の招待状や、1920(大正9)年5月31日に行われた戦艦「陸奥」進水式の記念写真など。「陸奥」進水式の記念写真に写っているのは、貞明皇后(大正天皇皇后)です。この進水式が行われた船台跡地は、現在ヴェルニー公園隣のショッパーズプラザ横須賀(ダイエー横須賀店)になっています。

午餐の招待状 戦艦陸奥進水式の写真

昭和の時代を象徴するのは、やはり山本五十六。様々な時期の手紙や名刺が展示されています。トラック泊地の連合艦隊旗艦「大和」から出された手紙は、ブーゲンビル島で戦死する半年ほど前の日付。

山本五十六少将時代の手紙 大和から出された手紙

また、現在の海上自衛隊に関するものも。横須賀に所属する護衛艦「ひゅうが」や、最新の汎用護衛艦「てるづき」、そうりゅう型潜水艦の模型等があります。そうりゅう型潜水艦の模型は、船体に貼られた吸音タイルも再現され、セイル部の潜舵にはオレンジ色の救命胴衣を着た乗組員が乗っているという凝りよう。おそらくレセプションの際に話題になったりするんでしょうね。

護衛艦てるづき模型 そうりゅう型潜水艦模型

サンルームには、元海上幕僚長で第5代統合幕僚会議議長だった故板谷隆一氏寄贈の南極の石も。この方、海軍兵学校時代は零戦の初陣を指揮した新藤三郎の同期で、自身は第2水雷戦隊参謀として軽巡洋艦「矢矧」に乗艦し、戦艦「大和」を中心とする水上特攻作戦に参加しています。寄贈年が没年と異なるのですが、おそらく遺族が故人の名で寄贈したんでしょうね。

南極の石

広島県にある、旧海軍呉鎮守府司令長官官舎だった入舟山記念館は、呉市に移管された為に一般公開されています。しかしこの旧横須賀鎮守府司令長官官舎である田戸台分庁舎は、海上自衛隊の現役の庁舎、しかも内外高官などゲストを接遇する施設ということもあって、普段は非公開。定期的なものとしては、庭園の桜開花時期に合わせた数日間の一般公開のみです。庭園にはソメイヨシノだけでなく、シダレザクラやオオシマザクラなど、様々な桜が植えられており、地元住民は「桜の分庁舎」として一般公開を楽しみにしています。

庭園

庭からは走水方面の海が望めます。ビルが増えましたが、かつてはもっと風光明媚だったんでしょうね。

庭からの景色

隣接する個人のお宅敷地には、旧海軍のものと思われる詳細不明の貯蔵庫もあり、なかなか興味深いところでもあります。

詳細不明の貯蔵庫

2014年度の一般公開は終了しましたが、この他不定期に公開されることがあります。2013年度はアニメ『たまゆら ~もあぐれっしぶ~』とタイアップした、京浜急行の沿線ウォーキングイベントでも公開(外観と庭園のみ)されたので、こまめに情報収集をしておくといいかもしれません。

(文・写真:咲村珠樹)


【宙にあこがれて】第42回 宇宙だけじゃないJAXA。JAXA調布航空宇宙センター公開

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「科学技術週間」に合わせて4月20日、JAXA調布航空宇宙センター(東京都調布市)が一般公開されました。JAXAといえば「宇宙」を想像することが多いのですが、あまり知られていない航空部門(航空本部)の様子を知る貴重な機会です。

調布航空宇宙センターの前身は、1955(昭和30)年に設立された科学技術庁所管の航空宇宙技術研究所(NAL)。JAXA発足後は航空部門の中心となり、現在はJAXAの本社機能と研究開発本部・航空本部が置かれています。日本最大級の規模を誇る、風洞をはじめとした試験設備が揃う航空技術研究の重要施設です。

【関連:第40回 航空機じゃない!? 知られざる無人機の世界】

調布航空宇宙センター公開

NAL時代に開発協力したYS-11のコクピット部もあり、来場した子供に大人気。年配の方も懐かしさから見学していましたね。これは国土交通省航空局の飛行点検機だったJA8720(製造番号2047)の頭部。航空局内では「にーまる」という愛称で親しまれた機体です。

YS-11コクピット公開

ここのウリは、やはり多種多様な風洞群。様々な速度域、温度域や大きさの風洞が揃っており、様々な航空機開発に利用されています。

風洞群の紹介 JAXAの開発・運用への寄与

中でも6.5m×5.5m低速風洞は日本最大の規模。驚くなかれ、建物のように見える外観が全て風洞なんです。

低速風洞外観

計測部はビルのような大きさ。とにかく巨大さに圧倒されます。ここで様々な試験が行われてきましたが、中には海上自衛隊で使用されている救難飛行艇US-2を消防飛行艇に改修し、上空から放水した場合どのように水が散布されるか、という試験も。実際に放水を重ねながら開発するのは大変ですから、まずこのような風洞で試験を重ねる訳です。

低速風洞
低速風洞内部 風洞放水試験パネル

他にも超音速風洞では、荷重センサを使って「指定された圧力を上手に試験モデルに加える」ゲームを実施。力加減が微妙で、なかなかピッタリにはできないものです。

荷重センサを使ったゲーム

ところで、風洞試験モデルに触れるのはこれが唯一。ゲームだからみんなペタペタ触っていますが、実は最低でも車1台分、高いものでは数千万円もする高価なもの。縮小モデルの為、わずかな誤差が実機の大きさになるとものすごい影響を及ぼすので高い加工精度が要求され、1点ものということもあり、どうしても高くついてしまうんですね。

各種風洞試験モデル

風洞試験モデルの製作が高価な為、現在ではスーパーコンピュータを使った数値シミュレーションも多く使われています。ここである程度詳細な形を決めておき、モデル製作の点数を減らしつつ、実際の風洞試験で実証していく作業も増えているのですが、両者を融合したシステムがデジタル/アナログ・ハイブリッド風洞(DAHWIN)。今回初公開のシステムです。しかも試験データはコンピュータ上で一括管理しており、アクセス権を持つ人であれば、どこからでもデータを取得することができます。試験のたびに技術者が出張する必要が無くなり、時間が有効活用されるという効果も。

デジタル/アナログ・ハイブリッド風洞

NAL設立当初の1960(昭和35)年に完成した遷音速風洞は、非常に多くの航空機開発に使用されてきました。一般公開の時は、現在試作1号機が最終組み立て段階に入っている国産旅客機、三菱MRJの試験モデルが入っていたのですが、企業秘密なので撮影は禁止。

遷音速風洞

この他、現在国際宇宙ステーションへの無人補給機として使用している「こうのとり(HTV)」に帰還カプセルを付けたHTV-Rの研究開発が進められており、マッハ10の気流を作る極超音速風洞や、マッハ4までの気流を作る超音速風洞では、帰還カプセルの試験モデルがさりげなく展示されていました。また、数千度もの高温の気流を作り出し、大気圏再突入時の状況を再現するアーク加熱風洞・誘導プラズマ加熱風洞も、HTV-Rに使用する断熱(耐熱)素材の開発などに使われています。

極超音速風洞用HTV-Rモデル HTV-Rの超音速風洞用モデル
750kWアーク加熱風洞 アブレータ供試体

次世代航空機の開発も進められています。機体に垂直上昇用のファン(リフトファン)を内蔵した垂直離着陸機(VTOL)「ホルニッセ(HORNISSE)」の開発に使われる小型の試験機が2種類(60cm級・2m級)展示され、実際に動かしてみることができました。

リフトファン式VTOL60cm級試験機 リフトファン式VTOL2m級試験機

60cm級で胴体後部に搭載された推進用ファンの位置が、2m級で翼端に移動したのは、ホバリング時に於ける水平左右方向(ヨー)の制御能力がヘリコプターの10分の1だった為、より回転しやすいよう改良した結果だとか。結果的に、ファンの後ろに機体の左右方向の傾き(ロール)を制御する補助翼を設置することができ、通常なら反応が悪くなる低速でも良好な操縦性が実現できたそうですよ。リフトファン式VTOLは垂直離着陸用と水平飛行用の推力が分離しているので、推力の向きを変更する他の方式と違って、垂直飛行から水平飛行に移る際の不安定な状態が存在しないのが大きなメリット。2025年からは人が乗るタイプの機体を開発する予定だそうです。

リフトファン式VTOL試験機想像図

また、これも初公開となったのが、直径15cmほど、全長60cmほどという世界最小級のターボファンジェットエンジン「NE-2013」。デンマーク製の模型用ジェットエンジン、SimJet3000を改造し、圧縮機の前にファンを設置、そして1段だったタービンを2段にして、1軸式から2軸式にしたというもの。推力も増強されています。3Dプリンタで出力した構造モデルも一緒に展示されていました。

NE-2013エンジン NE-2013構造モデル

こんなに小さなエンジンを作る理由は、安定したデータを得る為に使用する、高高度や速い速度での環境を再現する設備は大きさに限界があるので、それなりに小さなエンジンを用意する必要があるから。基礎研究として、様々な形状・材質のファンを試験するのにも、小さい方がコストがかからないという理由もあります。

マッハ5を超える極超音速旅客機の研究も進められており、その動力となる水素を燃料とした極超音速ジェットエンジンの試験機も展示。2013年には、マッハ4の速度で推進力を得る実験にも成功しています。

極超音速ジェットエンジン

調布飛行場に隣接する飛行場分室では、実験用航空機と素材研究の展示。一見目立たなくて来場者が気付かず、開発に携わった研究者が残念がっていたのが、日本原子力開発機構(JAEA)と共同開発した、無人放射線モニタリング無人機システム(UARMS)。福島第一原発事故の放射線調査にも力を発揮するものとして期待されている無人機で、2014年1月には福島県浪江町で本格的飛行試験を実施しました。これも今回が一般初公開。最大20時間連続して空中からの放射線モニタリングが可能で、搭載した検出器は飛行機の飛行高度(最大250m)から観測しても地上1mの観測データが得られるというもの。

放射線モニタリング無人機システム 無人機搭載用放射線検出器

大きなものでは、飛行試験に用いられる実験機ドルニエDo-228「MuPAL-α」。公開が予定されていた次世代航空機運航システム「DREAMS」の技術実証機(ビーチクラフト・ボナンザ)は、宮崎での定期点検が終了せず、残念ながらありませんでした。他にもここには、初の純国産ヘリコプターである三菱MH2000Aの唯一の現役機があったのですが、残念ながら2013年に退役してしまい、ちょっと格納庫は寂しい風景に。

実験用航空機Do228 かつてのMH2000A

素材研究では、カーボンナノチューブ(CNT)を用いた複合材料が初公開。通常の炭素繊維複合材に較べて、剛性が大幅にアップしているそうです。まだ引っぱり強度が弱く、それを克服するのが課題とか。

カーボンナノチューブ複合材料

飛行場分室で人気だったのは、フライトシミュレータ。飛行機用のフライトシミュレータは、航空会社の乗務員訓練に使われているのと同じもの。ただし、通常のシミュレータは操縦訓練に使われますが、こちらの場合は実験用航空機を使用した各種実験の前に、機体がどのような動きをするのか事前に確かめる為に使用しています。飛行特性の実験などをする為に、通常の飛行機とは違う状態で飛ばしたりするので、墜落しない為にも事前の試験が必要だということですね。ヘリコプター用のシミュレータは、会場周辺や新宿のビル街を飛行する映像が見られました。

操縦シミュレータ ヘリコプターシミュレータ

航空機開発のディープな世界を覗ける上、第一線の研究者達と直接交流できる貴重な機会。来年はぜひ、訪れてみてはいかがでしょう。

(文・写真:咲村珠樹)

石原裕次郎演じる『西部警察』木暮課長の可動フィギュア誕生。ブラインドのシーンも再現可!

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タカラトミーグループの株式会社トミーテックは、伝説的ポリスアクション作品『西部警察』より「木暮課長」こと木暮謙三(演:石原裕次郎)を可動フィギュア「figma」としてモデルアップした「figma 木暮謙三」を製品化することを発表しました。

【関連:名作アニメ『名探偵ホームズ』よりfigmaホームズ誕生!クラッシックカー付き】

figma木暮課長01

1979年から1984年にかけてテレビ朝日系で全236話(第1シリーズ・PART-II・PART-III)が放送された『西部警察』。第1話から米軍の最新鋭装甲車が奪われて東京の中心部に……という今までにないシーンが展開されて、視聴者の度肝を抜きました。シリーズ総計で壊した車約4680台、壊した建物320軒、使用された火薬4.8トンなど、今ではとてもできないような大規模なアクションシーン満載のドラマでしたね。日産プリンス自動車販売特販推進室(現:オーテックジャパン)が手がけた、数々の大門軍団用特殊車両「スーパーマシン」の他、ホーネッツによる楽曲をバックにしたOPも印象的でした。

※画像のベンチはトミーテック製の1/12駅ベンチです(別売品)

※画像のベンチはトミーテック製の1/12駅ベンチです(別売品)

ドラマでは警視庁西部警察署捜査課のメンバー、通称「大門軍団」の活躍がメインに描かれますが、彼らを影から見守り、大事な場面では前面に立つ存在だった、石原裕次郎演じる木暮課長(警察庁のキャリア官僚出身)。製品は第1シリーズの『西部警察』第23話「トリック・プレー」(1980年3月16日放送)での勇姿をイメージして立体化しています。劇中を再現する小道具として、身代金1億円の入ったアタッシュケースと札束、そして拳銃が付属。さらにタバコを持った手、サングラスなしのフェイスといった交換用パーツも付属しています。

figma木暮課長06

さらに製品パッケージの背景紙は、ブラインドがかけられた課長室をイメージしたデザイン。木暮課長がブラインドを押し下げ、外をうかがう有名なシーンの再現もできます。

「figma 木暮謙三」の発売予定は2017年1月で、価格は8000円(税抜)です。

figma木暮課長02
figma木暮課長04
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(C) 石原プロモーション

(文:咲村珠樹)

「千葉県内連続爆破予告」の実現性をミリタリーライターがガチで考えてみた

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千葉県内の自治体、市川市・柏市・鎌ヶ谷市・流山市(五十音順)に「千葉県内の学校、鉄道及び市役所の施設内の複数箇所に爆弾を仕掛け、5月20日(金)午前8時10分から午後3時34分までの間に断続的に爆破させる」というメールが届いて一週間。いよいよ犯行予告の日が迫ってきました。

【関連:「5月20日に高性能爆弾2783個を爆破させる」千葉県柏市が予告内容を公開】

柏市役所HPより

犯行予告を受けた各自治体では警備を強化しており、今のところ不審なものは見つかってはいないとのこと。

■ためしに犯行手段を真面目に検証してみた。

この件についてはイタズラという見方が強いとされていますが万が一も一応考えておかねばなりません。
そこで実際に「大量の爆弾を作り、それを気づかれずに設置する」には、どのような方法が考えられるかということを、ミリタリーライターの一人である筆者目線で真面目に考えてみました。

各自治体に送られた犯行予告メールに記された爆弾の数は、具体的な数を発表した柏市だけで2783個。他の自治体にも同じくらいの数が仕掛けられると予告されているとすれば、総計で1万個を超します。

現代の爆弾は、工場で作られた「兵器」としてのもの、テロに使われる手製のものに限らず「爆薬」と「起爆装置」で構成される、一種の「機械」となっています。爆薬は輸送中に誤って爆発したりしないよう、単体では爆発しない安定した状態。それに爆竹のような雷管や起爆装置(信管)を取り付け、その爆発の衝撃で爆発するようなものであることが一般的です。

そして1万個という数は、非常に大きな数であり、手作りの部分が大きい「試作品」や「特製品」ではなく、かなり本格的な「量産品」といえます。

■1万個作るには?

爆薬は、どんな高性能な爆薬であっても、人を確実に殺傷するなら、せめてひとつあたり50gの爆薬は欲しいところです。そうなると必要な量は500kg。
1発で車や建物を破壊・損傷させるなら、一般的なプラスチック爆薬「C-4」で2kgは欲しいところ。これなら1万個分で20トンになります。まず、どこに保管しておくかが問題になりますね。……作るにしても、これだけの量を「製造」するとなると、本格的なプラントが必要になります。

(米軍のAN-M66 2000lb(1トン)爆弾)

(米軍のAN-M66 2000lb(1トン)爆弾)

続いて起爆装置について考えてみましょう。1万個分の起爆装置を購入するにしろ、自作するにしろ、やはり何らかの「工場」で量産する必要があります。1万人で自爆テロというのも現実的ではないので、時限式の起爆装置を使うとすれば、タイマーが1万個必要になります。個人で取引ができる量ではないので、法人格が必要でしょうね。それでも、信用がない状態でいきなり1万個の取引をするのも大変ですから、小ロット取引で「確実に入金してくれる取引先」だという実績を業者と作る必要もあるでしょう。

■1万個仕掛けるには?

また、製造した爆弾を各所に「配達」しなければいけません。見つからないように設置するため、時間との勝負になります。恐らく、1日のうちに、しかも人目につかず、怪しまれないような限られた時間帯に仕掛け終えなければいけないでしょう。かなり多くの人数と、輸送手段が必要です。そうすると、車の他に「爆弾配送センター」的なものが必要になりそうです。

大きな倉庫が必要になる

さらに広範囲に散らばる1万箇所に、見つからないよう短時間で爆弾を設置するのに必要な人数を考えると、陸上自衛隊の普通科連隊(定数650~1500人)をひとつかふたつ、総動員するぐらいの人数が必要でしょう。設置に時間を掛けるのは、爆弾発見のリスクから妥当ではありません。それなりに隠密行動が取れるような訓練も必要でしょうから、その期間と手当て(まぁテロリストはいろんな意味でブラックな職業ですから、タダ働きさせてもいいんですが)も考えなければいけません。……てか、1000人単位の人が町を一斉に動き回って「怪しまれない」というのは、ドラえもんの「石ころぼうし」みたいな道具の助けが必要な気がしますが……。

ここまでの設備や仕入れに必要な「初期投資額」を考えてみると、どうも数千万から億単位のお金が必要になってきそうです。

億単位の資金が必要

……どう考えてもテロリストというより「爆弾製造業者」という感じになってきました。これだけ初期投資をするとなると、もはや1回のテロで投資金を全て無にするより、継続的に製造・販売して投資金を回収したいところです。

むしろ、これだけのお金があるなら、別の手口の方が効果がありそうな気がしますね……。「同時多発爆弾テロ」というのは、数箇所が限度、それ以上だと無駄の多い手段だというのがよく解る結果となりました。やはり現実的にみて1万個もの爆弾をしかけるのは無謀そうですね。

千葉県に届いた予告は今のところイタズラの可能性が高いと考えられていますが、最近類似の爆破予告が全国で相次いでいます。警察からの一日も早い犯人逮捕の報告が待ち望まれるところです。

(文:咲村珠樹)

あいつが戻ってきた……エイリアン3の「ドッグエイリアン」が1/10スケールフィギュア化

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株式会社壽屋は、ホラーSFシリーズの傑作『エイリアン』シリーズから、『エイリアン3』に登場した「ドッグエイリアン」を1/10スケールフィギュア化。「ARTFX+」シリーズの商品として発売します。発売予定は2016年10月、販売価格は8800円(税抜)です。

【関連:エイリアンクラッシュ/板橋しゅうほう】

エイリアン3の「ドッグエイリアン」

シリーズで初めて、人間以外の生物(イヌ)に寄生したことから、宿主の特徴である四足歩行するエイリアンとして登場したドッグエイリアン。その特徴的な姿が、1/10スケール(全長約150mm)という大きさで見事に表現されています。原型を担当したのは武藤直哉氏。

ギーガーデザイン独特の、金属と生物が融合したような質感の表現もあることながら、とにかくディティールの細かさが印象的。顔から首まわりなど、この大きさによくぞ……という感じ。半透明の頭部も良く再現されていて、ヌメッとした質感が気持ち悪いほどセクシーです。また、発達した大腿部を持つ後脚も素晴らしい出来。

ポージングも四足歩行の特徴をよく表した、獲物を見つけて飛びかかる寸前、といった、静止した中にみなぎる力と躍動感が同居した絶妙な瞬間でモデルアップ。先端が槍のようになった尻尾はベンダブルで、自由に曲げて表情をつけることが可能。全長150mmという大きさを感じさせないスケール感です。

本商品は簡易組み立てキットとなっており、箱から出して簡単な組み立てですぐにディスプレイすることができます。ボーナスパーツとして、ジオラマベース6枚と、そのジョイントパーツ4種が付属。立体的に組み上げることも可能なので、劇中の排気口のシーンで、素早い動きで天井すら駆け回ったシーンを再現することも可能です。

また、今回はさらに赤色LEDライトも付属。より劇中の雰囲気を感じさせる演出でディスプレイを楽しむことができます。

エイリアン3の「ドッグエイリアン」02
エイリアン3の「ドッグエイリアン」03
エイリアン3の「ドッグエイリアン」04
エイリアン3の「ドッグエイリアン」05

日本人所有の零戦、鹿児島で一般公開飛行。熊本への慰問飛行も

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イベント企画会社の株式会社YCグループと、株式会社ゼロエンタープライズ・ジャパンは、2016年5月27日~30日の期間、鹿児島県内で零戦の一般公開とDVD制作用の空撮飛行を行う予定です。熊本県の企業「セルモグループ」がメインスポンサーとなり、このイベントの名称は「セルモグループPresents 零戦里帰り一般公開飛行『今、私に出来ること』」となります。

【関連:零戦、鹿児島・鹿屋基地で27日からテスト飛行】

零戦22型(登録記号:N553TT)

飛行する零戦は、石塚政秀氏が所有する零戦22型(登録記号:N553TT)。ニューギニアで発見された三菱製3858号機をもとにロシアでレストア(リビルド)したもので、現在飛行可能な零戦としては、日本人が所有する唯一の機体です。

ゼロエンタープライズ・ジャパンがこれまで推進してきた「零戦里帰りプロジェクト」は、戦後70年を迎え、今一度戦後の日本を振り返る機会を作るということが目的です。

今回の一般公開ならびに空撮飛行は、もともと4月23日~25日に「零戦プラスかごしま」として予定されていたものの、直前に発生した熊本地震により延期していたもの。熊本・大分の震災被害を受け、災害からの復興への願いを込め、個々人が継続的に関わり「個々人が今、やるべきこと、できることをやろう!」という、より積極的な意味を込めた飛行とする考えとのこと。

飛行ルートは主に海上で、以下の日程で行われる予定です。

◆5月27日:試験飛行
鹿児島空港~鹿児島湾を南下~鹿児島湾を北上~鹿児島空港

◆5月28日:空撮飛行
1. 鹿児島空港~鹿児島湾南下~吹上浜北上~吹上浜南下~鹿児島湾北上~鹿児島空港
2. 鹿児島空港~鹿児島湾南下~志布志湾側北上~志布志湾側南下~鹿児島湾北上~鹿児島空港

◆5月29日:熊本空港慰問飛行
鹿児島空港~熊本空港~鹿児島空港

◆5月30日:空撮飛行、熊本空港慰問飛行予備日

※雨天中止の場合あり

飛行に必要な費用は、セルモグループのスポンサー費用ならびに空撮映像DVDを販売する費用でまかない、すでに事前予約販売を開始しています。また、DVDの購入者はエンドロールに氏名を明記して今回の飛行に協賛した記録を将来に残すとともに、販売収益の一部を熊本・大分の震災に対する義援金とする予定となっています。

石塚氏の零戦22型は、2016年の夏に耐空証明(車でいう車検のようなもの)が失効してしまうため、機体が登録されているアメリカで継続審査を受けなければいけません。輸送に備えて機体の分解・梱包や各種手続きに必要な期間を考慮すると、渡米前に飛行する姿を見られるのは、これが最後の機会となる可能性があります。しばらく会えなくなってしまう「蒼空を行く零戦」の姿を、目に焼き付けましょう。

(文:咲村珠樹)

【レッドブル・エアレース2016】室屋選手&チーム・ブライトリング千葉大会後単独インタビュー

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室屋選手の初優勝で終わった、2016年レッドブル・エアレース第2戦千葉大会。その興奮も冷めやらぬ中、室屋義秀選手と4位になったチーム・ブライトリングのナイジェル・ラム選手、そしてチーム・ブライトリングで来年のマスタークラス参戦に向け、今年から始まったレッドブル・エアレースの新育成プログラム「マスター・メンタリング・プログラム」に参加している、2015年のチャレンジャークラス王者、ミカ・ブラジョー選手に単独インタビューをしてきました。

【関連:第3戦千葉大会は伝説の幕開け。室屋義秀悲願の初優勝!】

◆室屋義秀選手

第2戦千葉大会で初優勝した室屋選手

■日曜のシャンパンファイト以来、お忙しいと思いますが、睡眠時間は大丈夫ですか?

「まあまあ寝られてますね(笑)。結構忙しいんですけど、なんとか寝られてます」

■表彰式後の記者会見でもお聞きしましたが、ファイナル4のフライトがとてもスムーズなラインで、特にモニターで、後から飛んだ選手達とゴースト(重ねて表示される目標タイムの選手の軌跡)で比べると、例えばゲート7から8までのライン取りが非常にスムーズな印象でした。

「今は結構コンピュータでのシミュレーションが正確になって、飛ぶ前から最適なラインというのが判っているんですよ。後は飛んで微修正する、っていう感じで、実は各パイロットもみんなその点は判っているんですよ。ただ実際飛んでみると、例えばゲート7からゲート8へのラインは、大きく振った方が確実にゲートをクリアできるんですね。その後のハイGターンが楽だったりするんですよ。なので、パイロットのコンディションというか、余裕によってラインの微修正が行われるって感じですね。それによって僅かずつ、0.1秒にも満たない部分での速さが出てきて、それの積み重ねが今回の結果につながったんじゃないかと思ってます」

■機体に関してですが、シュピールベルクから投入しているレイクドウイングチップの効果については?

「大してないんです(笑)。そう言うと語弊がありますが、あまりないっていうか、通常のウイングチップに比べると僅かにマシってくらいで、ウイングレットに比べると全然ですね。今、認可待ちになっている(1秒は速くなるとされる)ウイングレットがつけばもっと……今回でも0.5秒あれば楽々勝ててましたからね」

レイクドウィングチップを装着した室屋選手のエッジ540V3

レイクドウィングチップを装着した室屋選手のエッジ540V3

■優勝したことは大きな自信となると思いますが、この後のヨーロッパラウンドに向けては

「自信は持っているつもりなので、そこについてはチームも努力しているし、持ってていいと思うんです。ただ長いシーズンですから、多少の浮き沈みはあると思います。その中でも確実にファイナル4に残っていけば、必ずポイントは上位に行けますので。ひとつ勝ったことで、勝つコツみたいなものは学べたので、勝ちやすくはなったのかな、とは思いますね」

■今年は非常に混戦になっていますが、その点は

「ここからは実力差で抜けていきますから……1戦目はなんだか訳の判らない結果になりましたけど、徐々に実力に即した順位に落ち着いてきて、4戦目くらいから並んできて、これからは順位も落ち着いてくると思います。恐らくこれからは、実力のあるチームがポイントをグッと重ねて引き離してくると思います。そこにきちっと食いついていかないと、届かなくなってしまうんでね。このレースに勝つのと、シリーズ全体で勝つというのはプレッシャーも全然違うので、次の戦いはさらに大きい戦いになると思いますね」

■現在、マット・ホール選手がツキに見放された格好ですが、彼もやはり伸びてくると?

「トレーニングセッションも安定して飛んでますし、タイムも速いので、彼は必ず来ますから。まぁ……良し悪しの周期があって、彼は今ちょっと悪い順位ですけど、必ず来ます。マティアス(・ドルダラー選手)は安定して速いですから、実力通り後半戦は並んでくるはずだと思います」

■エアショウパイロットとしての室屋さんにお伺いします。レッドブル・エアレースやエアショウを通じて、空に対して関心を持ってもらいたい、ゼネラルアビエーション(軍や定期航空会社以外の自家用機や事業用航空)の裾野を広げたいという活動をしてらっしゃいますが、この千葉大会の優勝で、さらに関心は高まりますね。

「多分、大きく広がると思いますね。こうして多くの方に取材していただいていることも大きいですし。……ただエアレースパイロットを目指すと言っても、席が14しかないので、なかなか難しい面もありますけども。エアロバティックパイロットになれば、もう少し門戸は広がりますが、まだちょっと色々なハードルは多い。……今取り組んでいるのは、福島県と一緒になって、今年から体育館の中でパラグライダーを人の力で引っ張って、子供に飛んでもらう、という体験をしてもらってます。2~3mくらい浮くんですけど、そうやって「飛ぶ」という体験をしてもらう訳です。県と学校とに協力してもらって、そんな事業が今年から始まりました。何百、何千……福島県内の小中学生でも20万人近くいますから、その子供達が「飛ぶ」経験をする。これが全国に広がっていけば……その中で1%でも0.1%でも興味を持ってくれればいいなと思っているんです。10歳くらいでこの経験をした人が10年ほど経つと、学校を卒業して社会に出る年齢になる。そこで「空」を意識してくれたら……という、ちょっと息の長いプロジェクトを始めたので、地道に続けていければと思っていますね」

◆ナイジェル・ラム選手

ナイジェル・ラム選手

■千葉大会はファイナル4に進みましたが、あと一歩表彰台に届かず4位。残念でしたね。

「本当にね。最初のラウンド・オブ14をいい感じで飛べて、ファイナル4まで進めたんだけど、表彰台には乗れなかったからね。せっかくファイナル4にまで残ったのに何も得られなかったのは本当に残念だった。4位っていうのは最悪の順位だよ!……まぁ、一番最悪なのは最初に敗退してしまうことだけど、本当に残念な結果だった。厳しい週末だったね」

■10月は私の誕生月なので、毎年来るのが楽しみなんですが、今年はちょっと、来てほしくないとも思っています。あなたがレッドブル・エアレースを引退する月でもあるからです。

「ありがとう。とても悲しいことだよね。僕にとっても非常につらい決断だった」

■マスター・メンタリング・プログラムについてお聞きします。あなたから見て、ミカ(・ブラジョー)のフライトスタイルや、パイロットとしての力について、どのように感じていますか?

「(同席しているミカが「ヤバい!」という感じで苦笑する)僕自身がメンター(指導者)として優れているかどうかは判らないんだけど、彼は非常にユニークで素晴らしいキャリア(12歳で初飛行ののち、13歳からはエアロバティック大会に参加、16歳で参加したエアロバティックのフランス選手権で部門2位に輝く。史上最年少の22歳でフランス代表入り)を持っている。思うに、非常に優れた能力を持っていると言えるんじゃないかな。だからこのプログラムに参加したというのは、彼にとって非常に良い選択だったと思う。良いマシンでトレーニングもできるしね。将来、大きな成功を収めるパイロットだと思うよ」

■ユニークといえば、あなたのパイロット人生もユニークですね。パイロットとしてのキャリアをスタートさせたローデシア(現:ジンバブエ)空軍では、種々雑多な航空機があって、小所帯(パイロットはわずか150名ほど)だからヘリコプターも飛行機も区別なく乗らざるを得ないという環境だったと思います。あれはその後のパイロット人生で、大きな経験になったんじゃないんですか?

「僕は最初に非常にラッキーだったと思ってる。僕が受け取ったウイングマークは「GDP(General Duties Pilot)」……つまり「なんでも操縦できる」というものだったんだ。何しろ小所帯の空軍だったから、ひとつの機種だけ操縦するという訳にはいかなかったからね。ヘリコプター、ジェット機、ピストン(レシプロ)機……任務についても、輸送機や爆撃機、戦闘機と全てをこなさなければならなかった。軍にいたのは6年と短い間だったけど、あらゆる航空機を操縦して、それをマスターできたというのは非常にラッキーだった。とてもいい経験を積んだと思ってるよ」

■エアレースの話に戻りましょう。エアレースはこれからヨーロッパラウンドに入ります。ブダペスト、そして地元イギリスのアスコット(競馬場)……そういえば昨年、6月に開催された恒例の競馬、ロイヤルアスコットの観戦に訪れてましたね?

「知ってたのかい? そこにいる(ブライトリング航空部門広報の)ベッキーと一緒に行ったんだ。彼女が馬好きでね。あの時かぶっていたシルクハットは、彼女が作ってくれたんだよ」

■てっきり8月のエアレース、アスコット大会の下見かな、と思ってました(笑)

「そうそう、馬が走るトラック(馬場)を見ながら、心の中では別の(レッドブル・エアレースの)トラックを想像して、どう飛ぼうかとシミュレーションしてたよ(笑)」

■昨年のロイヤルアスコットには、日本からレッドブル・エアレースの開催地(シュピールベルク)と同じ名前を持つスピルバーグ(藤沢和雄厩舎)が出走していたし、あなたの姿もあったので、個人的に『エアレースつながりだなぁ』と思ってました(笑)

「そんな馬が日本から来ていたとは気づかなかったよ。……しまった、先に聞いておけば馬券買ったのに(笑)」

■ところで気になっているところがあるんですが、コクピット内のカメラ映像を見ていると、あなたは操縦桿の下の方を持って、グリップ上部を余らせるような感じにしていましたよね? あれはどういった理由があるんですか?

「持ち方を変えたんだ。以前は……(ミカ「ファイナル4の前?」)いや、もっと前。シュピールベルク以前は、確かにグリップ上部を余らせて持っていたね。僕の機体の操縦桿は結構長くて、下の方を持って、腕を膝の上に乗せるような感じで安定させて操作していたんだけど、シュピールベルクから上の方を持つように変えてみたんだ。これは特に理由はないんだけど、こっちの方が操作性が良いような気がする……という精神的な部分で、だね。シュピールベルク(3位)、千葉(4位)と結果が出ているんで、変えて良かったと思ってる。……しかしよくそんな細かいところまで見てるね。すごい観察力だ」

Lamb MXS-R

■昨年は昇降舵を小さくしたり、様々な機体の改修を行って試行錯誤していましたが、今年は機体の改修については?

「去年の機体改修については、結局様々な問題を引き起こすことになってしまった。操縦のフィーリングを改善するために昇降舵を小さくしてみたんだけど、それは機体性能のバランスを崩すことになってしまったんだ。対処する時間が少なく、感覚的な違和感が残ったままになった。なので途中から昇降舵を元の大きさに戻して、終盤はセッティングも全て2014年の状態に戻すことになった。そんなことがあったから、今年は大きな機体改修を行うつもりはないよ。とにかく、フィーリングに違和感がないのが一番だ」

■ここからはショウパイロットとしてのあなたにお聞きします。昨年8月のショアハム・エアショウで発生したホーカー・ハンターの墜落事故(11人死亡・16人負傷で、イギリスのエアショウでは1952年のファーンボロ・エアショウで31人が死亡して以来の大事故となった)を受けて、イギリス民間航空局が保険料を上げるなど、古い航空機を飛ばすことに対して規制を強化する……という動きがありましたね。実際にスピットファイアやP-51など、古い航空機を飛ばしているあなたも、その動きに心を痛めていると以前語っていましたが、そのことについてお聞かせください。

「よく見ていてくれているね……。多分、保険料などについては、ものすごく大きな変化はないと信じているよ。あの事故は不幸な出来事だったし、その後の規制については良い判断だったと思っている。そして、昨年のエアショウシーズンが終わった後が大変だったんだ。イギリス民間航空局による事故原因の調査は、普段は非常に慎重に進められていくものだけど、今回はある種のポリティカル・コレクトネスというか、様々なことをする必然性について検討しようという空気に支配されたんだ。それ以前、僕はあの事故について公表前段階の報告を聞いていたから、その反応の変化について、何が起こったのかはよく判らなかった。ただ、エアショウが非常にダメージを負ったのは間違いない。エアショウの運営については、保険以外にも多大なコストが必要だ。それを入場料に転嫁したり、独特なプロセスがある訳だけど、事故を受けて、観客の安全対策について主催者側の方に変化があった訳だね。なにしろ(1952年ファーンボロでの事故以来)63年ぶりの大惨事だった訳だから。僕は1500回以上エアショウで飛んでいるけど、個人的には、観客を巻き込むような事故は起こしたくないと思ってる。だから、この件については、正常な判断力を持つ人から見れば、とても馬鹿げた議論だと思うよ」

(追記:取材後、今年6月11日開催予定だったイギリスのスロックモーション・エアショウが、保険料など運営費の高騰を理由として開催がキャンセルされた)

◆ミカ・ブラジョー選手

ミカ・ブラジョー選手

■マスター・メンタリング・プログラム(以下:MMP)について伺います。昨年と今年、チャレンジャークラスからマスタークラスに昇格したパイロット達(ルボット選手、ベラルデ選手、ポドランセック選手、コプシュタイン選手)に訊くと、異口同音に「チャレンジャークラスとマスタークラスは全然違う。飛行機の速度も違うし、チームを自分でマネジメントしたり、飛行機を自分で所有して色々改造したりと、やるべき事がたくさんあって、それに翻弄されてしまう」と語っていました。その点、このプログラムは、1年にわたってマスタークラスの機体をレーストラックで操縦できてデータ解析もでき、さらにチームマネジメントについても学ぶ事ができます。これは来年、マスタークラスに昇格するにあたって、大きなアドバンテージになると思うんですが、どうでしょう?

「僕にとってMMPは、エアレースのチームを知り、どうすればいいのかを学ぶ重要な機会となってるよ。ナイジェル(・ラム選手)とブライトリング、ブライトリングチームがこのプログラムに参加することを決めて、皆が欲しがるであろう全ての要素を僕に提供してくれることになったんだ。実際この2ヶ月あまり、僕には大きな波が来ていると感じてるんだ。1年を通じて、マスタークラス参戦の為の準備ができる訳だからね。もちろん、参加しなかったり、他にも色々な選択肢があった訳だけど、ブライトリング・レーシングチームでこのプログラムに参加するというのは、スキルを磨く為にも大事な機会だと思って、オファーを受けたんだ。間近でラム選手のパフォーマンスや、チームマネージメントの様子を見て、多くの事を学べているよ。なにしろレッドブル・エアレース有数の強豪、2014年のチャンピオンチームだからね」

■実際、ラム選手のMXS-Rで飛んでみていかがですか? マスタークラス現役のレーシングマシンを。

「本当にいい感じだね。とてもパワフルで、速い。(2009年からラム選手が乗っているので)新品の機体ではではないんだけど、自分にはぴったりフィットしていると感じているよ。様々な部分が改修されていて、レッドブル・エアレースでは上位の機体のひとつだと思ってる。とにかく、コクピットに入った時のフィット感が素晴らしいんだ。これでレーストラックを飛ぶのは本当に楽しいよ」

■あなたのフライトスタイルにぴったりだ、ってことですか?

「その通り! 僕は若いパイロットだし、MXS-Rのようにカーボンファイバーで全てができている、最新技術で作られた機体っていうのは、エアロバティックスを含めて、僕のフライトスタイルによく適合しているよ」

ミカ・ブラジョー選手の乗るMXS-R(金曜)

ミカ・ブラジョー選手の乗るMXS-R(金曜)

■金曜のフリープラクティス前、あなたがラム選手のMXS-Rで飛ぶのを見ていたところ、機体を完全に手の内に入れているような印象でした。

「その通り。実はこのMMPが始まる以前、昨年冬の時点から僕はMXSに乗ってトレーニングを始めていたんだ。その時から、この機体の操縦感覚を体得してきてるんだよ。今年のレッドブル・エアレースが開幕して、アブダビ、シュピールベルク、そしてこの千葉でレーストラックを飛ぶことにより、レースでの機体特性や自分のスキルを磨いて、より速く、より安全確実にエアゲートをクリアし、ミスなくトラックを飛べるようになってきているよ」

■さて来年の話です。来年あなたはラム選手のMXS-Rを受け継いで、マスタークラスに参戦する訳ですが、チームスタッフについてはどうでしょう? そのまま引き継ぐんですか?

「今進行中のプロセスの一部で、今シーズン終了までには決めなきゃいけないことではあるんだけど、まだ今の時点では何も決めていないんだ。チームのみんなは『君の好きなようにしていいよ』と言ってくれるんだけど……。来月(7月)には、飛行機やチームスタッフなど、来年のチーム体制について何らかの方向性を打ち出す必要があると思ってるんだ。最終決定は今シーズンの終わりになるだろうね」

■来年のブライトリング・レーシングは、ルボット選手とあなた、フランス人パイロットを揃えたチームになりますね。

「あー……そうだね。悪くない環境だよ(笑)。彼(ルボット選手)とは、世界エアロバティック選手権でも同じフランス代表チームの一員として優勝したし。フランスはエアロバティックの世界で強豪国のひとつだから、フランス人が増えるというのは自然なことなのかもね」

■チャレンジャークラスにも、今年から同じエアロバティックのフランス代表の一員、メラニー・アストル選手が参加してますしね。……同じフランス代表チームのオード・ルモルダン選手も参加するといいなと思っています。実は、彼女の方がアストル選手より先にレッドブル・エアレースに行くものだと思ってました。

「もう彼女も訓練をしてるんだよ。実は2013年、レッドブル・エアレースのトレーニングキャンプに参加して、2014年からチャレンジャーカップに参加することが可能だったんだ。でも、スケジュール的な余裕がないとして、参加を見送ったんだよ」

■それは現役の旅客機パイロット(エールフランスのB777パイロット)だったりするから?

「それもあるし、他にもエアショウとか様々なことで忙しくしているから、そちらを優先させたということなんだろうね。もし、彼女の中で優先順位が変わってくれば、レッドブル・エアレースに参戦する日もくると思うよ」

■あなたのマスタークラスパイロットとしての将来について伺います。来年は参戦1年目となる訳ですが、MMPでの経験を得ているので、今までのルーキーとは違います。自信の程はどうですか?

「確かに、このプログラムは僕に自然と自信をくれると思う。最初のシーズンを良い機体、屈指の強豪チームで迎えることができるからね。他のパイロットが新しい機体、新しいチームで最初のシーズンを迎えるのに較べると有利だ。自信を持って、来年のマスタークラス最初のシーズンを迎えることができるよ」

■2014年のチャンピオンマシンに、このMMPの経験。非常に戦闘力の高いルーキーだと思います。

「そうだね。シーズン開幕当初から、上位に食い込めるポテンシャルをもって臨めるから、とても戦闘力のある新人になると思う」

■いきなり表彰台も狙える?

「そうなればいいね(笑)。とにかく、どのレースでもファイナル4を目指して飛ぶつもりだよ。そして楽しみながら飛ぶこと。結果としていいタイムが出て、表彰台につながれば最高だね」

■ファイナル4に進出すると、ちょっとしたチャンスをつかめば表彰台に上がれますからね。案外近いかも。

「そうなればいいね。……とにかく、安全に、確実に飛んで予選、ラウンド・オブ14、ラウンド・オブ8を突破して、ファイナル4で全てを出し尽くしていけば、幾つか表彰台、あるいは優勝も近い将来に狙えるかもしれないね。……まぁ、いいタイムを出していくのが前提だけど、表彰台に上がる準備はできてるよ」

■「頭は冷静に、フライトはアグレッシブに」ですね。

「その通り!今日はアリガトウ(「アリガトウ」は日本語)」

Nigel Mika

(取材:咲村珠樹)

【大人の工場見学】デニーズのハンバーグ工場見学に行ってきた

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ファミリーレストランの「デニーズ」が7月5日から、ビーフ100%ハンバーグをモデルチェンジするとのことで、工場見学の誘いをいただきました。

デニーズの工場見学!滅多に公開されるものではないので、建前は報道参加ですが「大人の工場見学」気分でわくわくしながら行ってきましたよ!

【関連:1分動画で話題の「どこを切ってもハンバーガー」つくってみたよ!】

さて、やってきましたハンバーグ工場。場所は色んな大人の事情があり、公開できません。日本のどこかとしておきましょう。

■見学までの衛生管理が超大変!

そして入るには食品を取り扱う工場なので、衛生面には細心の注意を払ってます。まず、全員専用の衣服に着替えて、さらにコロコロと粘着ローラーでホコリを取った後、エアーカーテンルームへ。そしてもう一度、粘着ローラーでホコリを徹底的に取ります。ちなみに工場の方は毎日、毎回こんなことをしているんだとか。

エアーカーテン

そして手洗いや靴の消毒は何度も。場所を移るたびに、手洗いと消毒を繰り返します。

徹底的に手洗い

■まずはお肉の処理工程を見学

最初に拝見したのは大事なお肉。生肉を取り扱っているので、結構ひんやりしてます。使われている牛肉は、赤身の旨みが強くなる穀物(大麦)のエサで育てられたもの。バラやカタなど、複数の部位がブレンドされています。加工前にはひとつひとつ、軟骨やスジなど、食味を損なうものを手で確かめて除去。この工程を担当しているのは、10年以上の経験豊富な人たちばかり。

手で丁寧に筋を取ります

肉の食感を強めるため、粗挽き肉だけでなく、ダイスカットの粗みじん切りした肉をブレンド。1回の仕込みに使う牛肉は、およそ450kgにもなります。

挽き肉は、脂身の配合もよく考えられてます。脂身は肉汁の源であり、ジューシーさをコントロールする大事な役割。でも多すぎると味がしつこくなり、少なすぎるとパサつきます。今回は「肉の食感」を重視するため、従来品よりも脂身があ少なめになっているとか。

ひき肉ができていきます
脂身の比率も重要

■つぎに玉ねぎの工程

玉ねぎも、およそ8mmの粗みじん切りです。これを20%の分量になるまで、じっくり炒めていきます。こちらも牛肉同様、飴色玉ねぎと、蒸気で蒸し焼きにした白いものの2種類。ハンバーグに甘みとコクを加えます。

みじん切り(右端)から白炒め(中)飴色玉ねぎ(左端)に

みじん切り(右端)から白炒め(中)飴色玉ねぎ(左端)に

■肉とその他の材料まぜていくよ!

まずはお肉に少量の塩を加えて混ぜ、粘り気を出していきます。続いて卵と牛乳を入れて、さらに混ぜます。

ひき肉投入

ひき肉投入


少量の塩で練ります

少量の塩で練ります

そして玉ねぎ投入。飴色と白、2種類の炒め玉ねぎが素敵なコントラストですねぇ。

飴色と白、2種類の炒め玉ねぎが入ります

飴色と白、2種類の炒め玉ねぎが入ります

最後にパン粉と各種スパイスを入れて、また混ぜます。この混ぜる工程、一方向だけでなく、逆回転してまんべんなく混ぜるようになってます。工場の方いわく「手作りの手わざを可能な限り再現しています」。

だいぶハンバーグらしくなってきました

だいぶハンバーグらしくなってきました

パン粉とスパイスが入ります

パン粉とスパイスが入ります

■ハンバーグの形に整えるよ!機械で手作り感を再現

混ぜ終えた生地を、今度はハンバーグの形に機械で成形していきます。型で抜いて整形する方法もあるそうなんですが、このデニーズのハンバーグの場合、手作りの良さを再現するため、ひとつ分の分量を分けたのち、数回に分けて形を整えていきます。両手でキャッチボールして空気を抜く過程を機械で再現してるんだとか。

ひとつひとつ成形

ひとつひとつ成形

■工場内のキッチンで試食「お肉食べてる!」って満足感でいっぱい!

こうしてできたハンバーグ、調理したらどうなるんでしょう。工場のキッチンで、デニーズ店内と同じように調理されたものを試食させてもらいました。比較として、従来のビーフ100%ハンバーグも一緒です。

従来のハンバーグ

従来のハンバーグ


新しいハンバーグ

新しいハンバーグ

見かけはあまり変わらないのですが、切った断面を見ると違いが判ります。新しいハンバーグは、ダイスカットされたお肉がブレンドされているので、粒状感がより粗挽きな感じ。肉の存在感があります。

従来品の断面

従来品の断面


新しいハンバーグの断面

新しいハンバーグの断面

食べてみると、従来品は滑らかさのある食感、そして新しい方は「肉を噛みしめる旨み」がより強調された感じ。いかにも「お肉食べてる!」って充実感が強まってます。実に存在感のあるハンバーグですね。この存在感のため、合わせるソースの開発も結構大変だったとか。

お肉の存在感が嬉しい、新しくなったデニーズのビーフ100%ハンバーグ。7月5日から全国の店舗で食べられますよ!

柚子胡椒と自家製ポン酢のさっぱり大麦牛100%ハンバーグ


【レッドブル・エアレース2016】レース機に使われているテクノロジーがすごいんです!

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全8戦中、半分の4戦を終了した2016年のレッドブル・エアレース。いよいよ8月13日・14日、イギリスのアスコット競馬場で開催される第5戦から、年間チャンピオンの行方を決める後半戦へと突入します。

レースに使われている飛行機は、共通のエンジンとプロペラを使用し、その部分の改造は許されていません。しかし、それ以外の部分については改造が可能。これにより、各パイロットは愛機に様々な改造を施しているのですが、それぞれのアプローチに違いがあり、わずか2機種(エッジ540、MXS-R)にもかかわらず、スタイリングのバリエーションは豊富です。

ここでレッドブル・エアレースをより楽しめるよう、第3戦・千葉大会時点での状態をもとに、代表的な改造のポイントと、その特徴についていくつかご紹介しましょう。

【関連:室屋選手&チーム・ブライトリング千葉大会後単独インタビュー】

■改造前の状態はどんな感じ?

改造の状態を紹介するには、まず「あまり改造をしていない状態」が判らないと違いが判りませんね。便宜上の基準として、まずはフランソワ・ルボット選手のエッジ540V2をご紹介します。2014年シーズンにマイケル・グーリアン選手が使用していた機体で、ルボット選手はあまり手を加えていません。原形に近い状態と言えるでしょう。

ルボット選手のエッジ540V2

ルボット選手のエッジ540V2

千葉で、ルボット選手は愛機について
「僕の機体は、他の選手より10ノット(時速約18km)遅い。トラックにもよるけど、タイムにして2秒から3秒弱余計にかかってしまうんだ。だから、対戦相手がミス(インコレクトレベルやパイロンヒット)でタイムロスしてくれないと勝負にならない」
と語っていました。つまり、他の選手は同じエンジン、プロペラを使用していても、機体の改造によって原形より2~3秒速くなっている、という訳です。
(第4戦のブダペスト大会から、ルボット選手は機体の改造をした為、現在は千葉の状態とは形が異なっています)

■改造のポイント
同じエンジンとプロペラを使う以上、速くするには2つのポイントがあります。

空気抵抗を小さくする
エンジンの効率を落とさない

機体の空気抵抗を減らし、また熱でエンジンの効率を落とさないよう、うまく冷却する必要があります。各パイロットはこのポイントに知恵を絞っているのです。

■ウイングレット

外観上、最も判りやすいのは、主翼の先端に付けられた小さな翼「ウイングレット」でしょう。これは翼の先端(翼端)に発生する、誘導抵抗を低減する為のものです。このウイングレットを初めて取り付けたのは、ナイジェル・ラム選手のMXS-R。2014年のことでした。この年、ラム選手は年間チャンピオンに輝きます。

ラム選手のウイングレット

ラム選手のウイングレット

翌2015年、同じMXS-Rに乗るマット・ホール選手も、大きなウイングレットを装着。ホール選手は年間を通して安定した速さを見せ、ポール・ボノム選手(2015年を最後に引退)に肉薄する年間2位になりました。

ホール選手のウイングレット

ホール選手のウイングレット

MXS-Rだけでなく、エッジ540にもウイングレットが付いています。2015年途中からピーター・ベゼネイ選手(2015年を最後に引退)が使用した機体を受け継いだマルティン・ソンカ選手。ベゼネイ選手が装着した小さめのウイングレットがついています。

ソンカ選手のエッジ540

ソンカ選手のエッジ540

マイケル・グーリアン選手のウイングレットは、ちょっと大きめ。白を基調としたカラーリングの中、紺色のウイングレットは目立つ存在ですね。

グーリアン選手のエッジ540

グーリアン選手のエッジ540

エッジ540の開発に携わった「エッジの父」、カービー・チャンブリス選手は、エッジの製造元であるジブコ社と共同開発したウイングレットを装着しています。今年、チャンブリス選手は非常に好調で、第4戦終了時点で年間ランキング3位。このウイングレットも大きな役割を果たしているのかもしれません。

チャンブリス選手のエッジ540

チャンブリス選手のエッジ540

2016年シーズン年間ランキング首位のマティアス・ドルダラー選手。2015年は小さい「ウイングチップフェンス」を使っていましたが、今年はウイングレットを装着。自分のナンバーである「21」とドイツ国旗のカラーリングが印象的です。

ドルダラー選手のエッジ540

ドルダラー選手のエッジ540

さて、このウイングレット、大きければいいという訳でもありません。大きくなれば、ウイングレットの重量が主翼に負担を与えてしまい、最悪主翼の構造材が破損します。主翼を補強しようとすると、さらに重量もかさみます。エッジ540に較べ、MXS-Rは翼の構造が丈夫なので、より大きめのウイングレットが装着できますが、エッジの方もウイングレットの軽量化に努め、少しずつ大きなものが使えるようになっています。また、大きくなれば、その分ウイングレット自体の空気抵抗(表面抵抗)も大きくなるので、大きくなりすぎると誘導抵抗の低減効果を上回る空気抵抗を生み出しかねません。ウイングレット自体の重量と空気抵抗、このさじ加減が非常に微妙で、各パイロットはそのバランスに気を使っています。

また、室屋選手は第2戦のシュピールベルク大会から、大きめのウイングチップである「レイクドウイングチップ」を装着しています。ウイングレットと同様の目的の部品ですが、誘導抵抗を減少させる効果は、室屋選手曰く「ウイングレットに較べると微々たるもので、通常のウイングチップより多少はマシかな……といった程度」とのこと。これは、2016年シーズン用に室屋選手のチームが開発した大きなウイングレットが、一旦認可されたものの、開幕直前に一転認可が取り消されたことによって使えなくなり、その代用として装着されることになったものです。

レイクドウイングチップを装着した室屋選手のエッジ540

レイクドウイングチップを装着した室屋選手のエッジ540

■主翼に施された工夫

2016年シーズン開幕から快進撃を続け、第4戦までに2勝して年間ランキングのトップに立っているドルダラー選手の機体をよく見てみると、主翼の前の方(主翼前縁)に、銀色のテープ状の突起物が片翼に3ヶ所ずつ、合計6ヶ所付いています。これ、取材陣やパイロットの間で話題になっているんです。

ドルダラー機主翼前縁にある銀色のテープ

ドルダラー機主翼前縁にある銀色のテープ

あくまで推測ですが、これは細かな渦状の気流を生み出す「ボルテックス・ジェネレータ」ではないかと筆者は考えています。同じテープ状のものは、グライダーではポピュラーな装備で、細かな渦を意図的に作り出すことで、翼の効率を良くしたり、空気抵抗を低減したりすることができます。

普段はカバーで隠されている

普段はカバーで隠されている

ドルダラー選手にとって、この銀色のテープはトップシークレットのようで、普段ハンガーではカバーに覆われています。これについて「隠してる主翼前縁のあれ、ボルテックス・ジェネレータでしょ?」と訊いても、あの気さくなドルダラー選手が「特に意味はないよ」とはぐらかしてしまうほど。ウイングレットはさらに厳重にカバーされており、この表面にも何か大きな秘密がありそうです。

細かな渦を意図的に作り出す、というものは他にもあります。胴体などは表面の空気抵抗を減らす為、ツルツルに磨きあげているのですが、補助翼のある主翼外側部分は、あえてザラザラした「シャークスキン」と呼ばれる表面仕上げにしている機体があります。ハンネス・アルヒ選手の機体はその代表例。

アルヒ選手のエッジ540

アルヒ選手のエッジ540

原理としては、かつて競泳の世界で流行した「サメ肌水着」と同じです。細かな渦を意図的に作り出すことで空気抵抗を減らし、補助翼の効きも良くすることができます。より素速く動ける訳ですね。

■キャノピーの空気抵抗を減らす工夫

胴体部分で最も大きな空気抵抗を生み出す部分といえば、操縦席のキャノピーです。大きく胴体から張り出しているので、いかにこの部分の抵抗を少なくするかが知恵の絞りどころ。シンプルな考え方としては、キャノピーの張り出しを抑える為、高さを低くすること。アルヒ選手の機体が判りやすい例で、低くなった高さに合わせて着座位置も下げています。

高さを抑えたアルヒ機のキャノピー

高さを抑えたアルヒ機のキャノピー

これをさらに一歩進め、高さだけでなく幅も狭めるパイロットもいます。一番小さいと思われるのが、室屋義秀選手。キャノピーの後ろに続く「タートルバック」と呼ばれる部分も削り、いわゆる「水滴型」という形状になっています。キャノピー前部のラインも、盛り上がるというよりは空気を「すくい上げる」といった感じ。かなり空気抵抗の低減に貢献しているように思えます。

室屋機の美しいキャノピー

室屋機の美しいキャノピー

ドルダラー選手も幅を狭めたコンパクトなキャノピーを採用しています。

コンパクトなキャノピーを持つドルダラー機

コンパクトなキャノピーを持つドルダラー機

低く、幅の狭いキャノピーを見ていると、パイロットはとても窮屈そうです。この点について、スリムでコンパクトなキャノピーを使っているニコラ・イワノフ選手に聞いてみると
「周りを見回したり、首を上下に動かすことについては問題ない。ただ、首を左右に傾けるとすぐにキャノピーにぶつかるね。逆に、横方向のGがかかる時、普段は首の筋力で頭を支える訳だけど、このスリムなキャノピーでは、首の筋肉の代わりにキャノピーが頭を支えてくれるから楽ではあるよ(笑)」
という答えが返ってきました。

小さなキャノピーのイワノフ機

小さなキャノピーのイワノフ機

イワノフ選手によると、小さなキャノピーの欠点は飛んでいる時よりも地上滑走時の方が目立つそうです。
「地上がデコボコしていると機体が揺れて、その度に頭がキャノピーにぶつかるんだ。舗装されていない滑走路では、頭がキャノピーにガンガン当たってかなり大変だよ」

■個性的なクーリングシステム

ウイングレット以上にバラエティに富んでいるのが、エンジン周りのクーリングシステム。レッドブル・エアレースに使われる空冷エンジンは、エンジンの周りを流れる空気によって冷却します。また、潤滑油もエンジン冷却に大きな役割を果たします。エンジン自体の改造は認められていませんが、潤滑油を冷却するオイルクーラーなど、補機に関してはある程度自由に設置場所や数などを変更することができます。

冷却効果を高める為、各チームでは様々な知恵を絞っており、それがエンジンカウル周りのデザインに現れています。エンジンカウル自体は空気抵抗を減らす為、なるべく絞り込んだ形状をしていますが、エンジン冷却用の空気を取り入れる開口部も、やはり小さくなっています。そして、エンジンルーム内には導風板が設置されており、取り入れた空気がエンジンのシリンダー上部を流れるように導いています。エンジン上に空気の流れを作り、それによってエンジン周辺の熱くなった空気を吸い出そうという発想です。

チャンブリス選手のエンジンカウル内導風板の様子

チャンブリス選手のエンジンカウル内導風板の様子

昨年までポール・ボノム選手が使っていた機体である、フアン・ベラルデ選手のエッジ540V2の場合、開口部のデザインが左右非対称。これは補機類の配置が左右対称でない為、空気の流れ方を変える必要があるからです。

ベラルデ機の左右非対称の空気取り入れ口

ベラルデ機の左右非対称の空気取り入れ口

さらに前面の開口部はエンジンのシリンダー冷却専用の空気取り入れ口で、カウルの下部には、オイルクーラーを冷却する為の空気取り入れダクトがあります。

カウル下面に設けられたオイルクーラー専用の冷却用空気取り入れダクト

カウル下面に設けられたオイルクーラー専用の冷却用空気取り入れダクト

なるべく多くの空気を取り入れる為に、開口部を大きくしたほうがいいんじゃないの? と思ってしまいますが、実はさにあらず。やみくもに空気の取り入れ口を大型化すると、エンジンカウル内で「空気の渋滞」が起きてしまい、空気抵抗を大きくしてしまうのです。抵抗が大きくなると結果的に空気の流量が減り、冷却効率は落ちてしまいます。これを防ぐには「熱くなった空気を素速く排出する」ことが重要。そこで多くの機体のエンジン排気口周辺は、エンジンカウルの開口部も大きくなっており、ここから熱い空気を排出しています。

室屋機の大きく開いたエンジン排気口周辺

室屋機の大きく開いたエンジン排気口周辺

ベラルデ選手の排気口周辺を見ると、エンジンカウルの部分がギザギザになっています。これはボーイング787のエンジンナセルで見られる「シェブロンノズル(シェブロンは「ギザギザ」という意味)」と同じものです。このギザギザで空気の渦を作り、エンジン排気と混ぜることで、エンジン排気の勢いを利用してエンジンカウル内部の空気排出を促進させようという目的でデザインされているようです。

ベラルデ機のエンジン排気口はシェブロンノズル

ベラルデ機のエンジン排気口はシェブロンノズル

一見同じように見えるレース機には、それぞれのパイロットの考え方に基づく改造により、細かな違いがあります。機体のディティールを見ながら「この部分のデザインは、どんな目的で作られているのか」と想像すると、より深くレッドブル・エアレースを楽しむことができますよ。

(文:咲村珠樹)

【レッドブル・エアレース】室屋義秀選手2016年シーズン報告会

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強風の為、予選・決勝とも中止となり、観客側からすると少々不完全燃焼で終わった最終戦ラスベガス大会から約2週間。室屋義秀選手がレッドブル・エアレースの2016年シーズンを振り返る報告会が、室屋選手のホームグラウンドである福島県の「ふくしまスカイパーク」で行われました。

【関連:レース機に使われているテクノロジーがすごいんです!】

■2016年シーズンを振り返る

2016年は「進化をした部分と、歯車が噛み合わなかった部分とがあったシーズン」だったという室屋選手。年間ランキングは、2015年と並ぶ自己最高タイの6位でしたが、昨年は「後半追い上げていった結果、6位に届いた」という感じだったのに較べ、今年は機体やチームのポテンシャルが向上し「後半噛み合わず、結果の出ないことが続いたのに6位にとどまった」という印象だと振り返りました。自信とともに「もっと上に行けるはずなのに」という悔しさもにじむ6位だったようです。

室屋義秀選手

今シーズンのハイライトといえば、第3戦千葉大会での初優勝でしょう。参戦しているパイロットの誰もが夢見る、母国大会での優勝(現役パイロットではチャンブリス選手と2人のみ)という劇的なものでした。この時は2009年の同期デビュー組(ドルダラー選手、ホール選手、マクロード選手)が、我が事のように喜んでいました。結束の強いことで知られる2009年組の4人。第2戦のシュピールベルクでのドルダラー選手初優勝に続き、室屋選手が千葉で勝ったことで、全員が優勝経験者になりました。これからは彼らがレッドブル・エアレースの主役となっていくことが期待されています。

千葉での優勝後、今シーズンの目標となっていた「年間3位以内」へ加速……とファンの期待も膨らみましたが、ここから一転して苦戦が続きます。予選ではトップを取るなど好調さを維持しているのですが、なかなか決勝で勝ち進めません。

「一発勝負の予選は好き」という室屋選手。レースとなると今年は気象条件が悪くなったり、様々な要素が絡んで、時にトリッキーな展開になることがあり、それに翻弄された面がありました。

誰よりも速く飛ぶという予選とは違い、ノックアウト(対戦勝ち抜き)形式の決勝では絶えず無理して100%を出す必要はなく、組み合わせや対戦相手の出方に応じて「相手よりわずかでも速く飛べばいい」という戦い方になる為、その調整がうまくできなかったことが原因であり、反省材料だったと分析していました。予選のように全開でいくのが好きだけども、それでは勝ち進んでいけないので、もう少し精神的に余裕を持ってレースを進めていかなくてはいけない、と来シーズンを見据えていました。

トラックの好みとしてはテクニカルな方が好きだという室屋選手ですが、機体はむしろスピードの乗りやすい仕上がりになっている為に、ハイスピードなトラックの方が有利に働きます。その弊害としては、オーバーGを誘発しやすいということ。同じ動きならば速度の速い方がGが大きくなるので、他の選手の機体では大丈夫でも、室屋選手の機体では速度が出すぎてオーバーG……ということもある訳です。ハイスピードとテクニカルな要素が融合したトラックが理想なのですが、今年の千葉のトラックがまさにそれ。勝利の前提が整っていたんですね。

室屋義秀選手02

今年を最後に2014年の年間王者、ナイジェル・ラム選手が引退しましたが、来年チーム・ブライトリングから参戦するミカ・ブラジョー選手は、若くしてエアロバティックス(曲技飛行競技)の世界王者にもなった経験のある優秀なパイロット。「正直ビビっている」と冗談めかして語った室屋選手ですが、来年の目標は「総合優勝」。すでに来年に向けて、機体の改修は最終段階に入りつつあるとのこと。期待しましょう。

■迫力のデモフライト

この後、室屋選手によるデモフライトが行われました。使用機はブライトリングカラーのエクストラ300L。

デモフライトに向かう室屋選手

デモフライトに向かう室屋選手

雨雲が近づきつつある悪条件でしたが、様々なエアロバティックスの技を披露してくれました。

使用機はブライトリングカラーのエクストラ300L

使用機はブライトリングカラーのエクストラ300L


ストールターン(ハンマーヘッド)

ストールターン(ハンマーヘッド)


手を振りながらのナイフエッジローパス

手を振りながらのナイフエッジローパス


デモフライト終了直後

デモフライト終了直後

デモフライト終了直後、雨が。空も待ってくれたようです。

■室屋選手単独インタビュー

報告会終了後、室屋選手にお話を伺いました。

ヨーロッパラウンドから、主翼にボルテックスジェネレータ(空力的に良好な結果を得る為にわざと気流を乱す突起物)を装着して試していましたが、実戦投入はされませんでした。ボルテックスジェネレータのメリットはいくつかありますが、狙いはどこにありましたか?

「(主翼外側となる)エルロン側の失速特性をよく(失速しないように)したりとか、プロペラ後流(プロペラから発生するらせん状の気流で、機体を回転させ、姿勢を乱す原因ともなる)などの影響を排除し、主翼にかかる力のバランスを取ろうと思って試してみたんですが、トラックで飛んで精密なデータを取ってみたところ、いまひとつ効果がハッキリしない……ということで、実戦には投入しませんでした。操縦のフィーリングにも差が出てくるんで、確実性を重視したんですね。タイムが出たとしても、操縦感覚に変化があると、そちらの要素でタイムを落としてしまうので。その辺のいろんなバランスの結果、実戦投入せず、ということにしました」

来年に向けての改修ポイントについて教えてください

「今年はちょっと時間がないので、全体のクリーンナップがほとんどですかね。あとはエンジンのクーリングについて少々手を入れようかと」

エンジンルーム内の気流を整える方向で?

「そうですね。色々パーツをつけたり外したりしたので、それに合わせてカーボンパーツを切った張ったしたので、その形状を整える感じです。アメリカの工場ではいい感じで進んでいます」

室屋さんのエッジ540V3は、表面抵抗に関しては非常に少ないシェイプになって、速度の乗りという点ではトップと言えますが、翼端の誘導抵抗の対策についてはいかがですか? 今年は許可が下りませんでしたが、ウイングレットについては?

「今のところは同じ(レイクドウイングチップ)かな、という感じですね。あれをちょっと改良するか……全体のウエイトのバランスを見ながらですね。パーツの重量がありますので。ただ、投入するとしたらシーズン半ばになると思います。シミュレータだけでは完全には解らず、実際にテストフライトしないといけない面もあるので、ちょっと開幕までは時間が足りない感じですから」

今年はインディアナポリスでのオペレーショナルバイオレーション(バーティカルターン時、機体をひねらず上昇しなければいけない)や、アスコットやインディアナポリスでの離陸してすぐにトラックに入る「スタンディングスタート」でオーバーRPM(制限を超えてエンジンを回してしまう)が目立ちました。ちょっと判りにくい反則ですが、オーバーRPMを誘発する原因はなんでしょう? スロットルなのか、ミクスチャー(燃料と空気の混合比)のコントロールなのか、それとも……

「あれはプロペラピッチですね。通常のトラックだと、色々調整して入っていくことができるんですが、離陸してすぐに入るスタンディングスタートだと(余裕がなくて)調整が難しい場合があるんですよ」

■翌日はエアショウ

翌日には時計ブランド、ブライトリングのユーザーを対象にしたイベントがふくしまスカイパークで行われ、こちらでも2000人の来場者を前に、トークショウとデモフライトが行われました。

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ラムシェバック

ラムシェバック


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スモークを出しながらのグラウンドループ

スモークを出しながらのグラウンドループ

レッドブル・エアレースはオフシーズンになりましたが、室屋選手のエアショウはまだまだ続きます。

11月6日:かさおかポルダーフェスティバル(岡山県笠岡市・笠岡ふれあい空港)
11月13日:宮子姫みなとフェスタ2016(和歌山県御坊市・日高港)
11月26日:Fly Again Tsuchiura 2016(茨城県土浦市・霞ヶ浦総合公園)

エアショウパイロットとしての室屋選手を、お近くの会場でぜひご覧になってください。

(取材:咲村珠樹)

天野喜孝『流星刀』を擬人化 宇宙と芸術展で特別公開

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 東京・六本木ヒルズの森美術館で開催中の『宇宙と芸術展:かぐや姫、ダ・ヴィンチ、チームラボ』。この会場で人気の高い『流星刀』を『ファイナルファンタジー』シリーズなどのキャラクターデザインを手掛けたイラストレーター・天野喜孝さんが擬人化し、描き下ろしたビジュアルが11月23日(水・祝)より森美術館内スペースで特別公開されることになりました。

【関連:2015年には天野喜孝さんの原画がAmazonに出品されたことも…特別価格で2億円】

(天野喜孝『流星刀』 2016年 アクリル、紙 850×600mm  (C)AMANO Yoshitaka Courtesy Mizuma art Gallery )

(天野喜孝『流星刀』 2016年 アクリル、紙 850×600mm (C)AMANO Yoshitaka Courtesy Mizuma art Gallery )

 『流星刀』は、隕石の中でも成分に鉄を多く含む隕鉄を材料に鍛えあげた日本刀です。東京農業大学の創設者であり、明治政府の逓信大臣、文部大臣、外務大臣など要職を歴任した榎本武揚の依頼により、1890(明治23)年に富山県で発見された隕石『白萩隕鉄1号』から、刀工の岡吉国宗が1898(明治31)年に製作したもので、森美術館で展示されているのは、そのうちの長刀1振(東京農業大学図書館所蔵)。榎本武揚により『流星刀』と称され、この製作の経緯を榎本は『流星刀記事』という論文にまとめています。同時に製作された長刀と短刀1振りずつは、当時の皇太子(のちの大正天皇)に献上されています。

 地球上の鋼とは成分が違うため、鍛造にも非常に苦労が伴い、製作した国宗は神社に祈願するほどだったといいます。また、その地肌は独特の輝きをたたえているのも特徴。

 流星刀の擬人化によせて、天野喜孝さんはコンセプトとして
「遠い宇宙から飛来し、その姿を美しい刃に変えた流星刀。未知なる輝きは封印を解かれ、その秘めた力が今、現れる。この刀は何と戦い、何を斬るのだろうか」というコメントを寄せています。

(岡吉国宗『流星刀 1898年 隕鉄 刃長 68.6cm 反り 1.5cm 所蔵:東 京農業大学図書館 撮影:木奥恵三 )

(岡吉国宗『流星刀 1898年 隕鉄 刃長 68.6cm 反り 1.5cm 所蔵:東 京農業大学図書館 撮影:木奥恵三 )

 流星刀に合わせ、新たにその擬人化ビジュアルが展示される『宇宙と芸術展:かぐや姫、ダ・ヴィンチ、チームラボ』。東京・六本木ヒルズの森美術館で2017年1月9日(月・祝)まで開催されます。

(文:咲村珠樹)

リカちゃん大人向け雑貨ブランド 第1弾は「有田焼」や「今治」など51アイテム

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 株式会社キャラアニが、株式会社タカラトミーのロングセラーキャラクター・リカちゃんの大人向けブランド『LiccA(リカ)』のライセンスを取得し、大人の女性向け雑貨LiccA my‘chouchou’(リカ マイシュシュ)の51アイテムを、2016年11月29日より全国発売すると発表しました。

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リカ マイシュシュ

 2017年で50周年を迎えるリカちゃん。3世代にわたって愛され続ける「永遠の小学5年生」に対し、今回登場するのは20代~40代の大人の女性をターゲットにしたラインナップです。「chouchou(シュシュ)」はフランス語で「お気に入り」という意味。お父さんがフランス人というリカちゃんにちなんだものだそうです。

 大人の女性にふさわしい、高品質な商品がラインナップされており、トートバッグ、ポーチといった定番はもちろん、日本特有の高品質ブランドである「有田焼」や「今治」を用いたグッズも。第1弾は、2016年11月29日から順次発売。

 全国の雑貨店、ホビー店、百貨店やオンラインショップ「キャラアニ」を中心に販売予定です。

・有田焼カップ&ソーサー(2種類)各6,500円
・有田焼マグカップ(3種類)各3,500円
・今治ハンカチーフ(3種類)各1,000円
・今治タオルハンカチーフ(3種類)各1,500円 ※12月発売予定
・トートバッグ ‘grand’(Black)4,000円
・トートバッグ ‘grand’(White)3,500円
・トートバッグ ‘petit’(2種類)各3,500円
・ポーチ(2種類)各2,500円
・クリアファイル(4種類)各400円
・ウォレット(2種類)各18,000円
・レディースTシャツ ‘petit motif’(2カラー・サイズ S〜L)各4,500円
・レディースTシャツ ‘logo mimi’(3カラー・サイズ S〜L)各4,500円
・iPhone case 6/6S(4種類)各3,000円
・ポストカード(7種類)各200円
・マグカップ(2種類)各1,500円
(※価格は全て税別)

有田焼カップ&ソーサーは香蘭社とのコラボ

有田焼カップ&ソーサーは香蘭社とのコラボ


今治ハンカチーフ

今治ハンカチーフ


トートバッグ L(Black)

トートバッグ L(Black)

(文:咲村珠樹)

【レッドブル・エアレース】いよいよ年間スケジュール発表・2017年シーズン

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FAI公認の世界選手権となって通算10シーズン目となる2017年のレッドブル・エアレース。先に発表されたアブダビでの開幕戦(通算75戦目)まで、あと3週間。ついに年間スケジュールが発表されました。今シーズンはどんな展開になるでしょうか。開幕前の話題をピックアップしてみましょう。

【関連:室屋義秀選手2016年シーズン報告会】

■開幕戦のアブダビからインディアナポリスまで、全8戦のスケジュール

2017年のスケジュールは以下の通り。2月のアブダビから10月のインディアナポリスまで、全8戦で行われます。

開幕戦:アブダビ(2月10日~11日)
第2戦:サンディエゴ(4月15日~16日)
第3戦:千葉(6月3日~4日)
第4戦:ブダペスト(7月1日~2日)
第5戦:カザン(7月22日~23日)
第6戦:未定(ヨーロッパ・8月12日~13日)
第7戦:未定(ヨーロッパ・9月2日~3日)
最終戦:インディアナポリス(10月14日~15日)

千葉大会は6月3日〜4日、そして2006年第4戦サンクトペテルブルク大会が中止、2015年に一度ソチが設定されたのちにキャンセルされたロシア開催が、カザン(ロシア連邦・タタールスタン共和国の首都)で実現しました。サンディエゴは2007年〜2009年(2007年・2008年は現在解説者のポール・ボノム氏、2009年はニコラ・イワノフ選手が勝利)以来の開催となります。

ヨーロッパでの2戦が開催地未定となっているのが気になりますが、昨年初開催された「モータースポーツの聖地」インディアナポリス大会は最終戦に設定。会場となるインディアナポリス・モータースピードウェイは、開催された各ジャンルのレース勝者の名がパネルに刻まれています。2016年のマティアス・ドルダラー選手に続き、名を刻むのは誰になるでしょうか。

■アジアからも参戦・新加入のパイロット

2017年シーズンは、マスタークラス2名、チャレンジャークラス3名の合わせて5名のルーキーが参戦します。チャレンジャークラスには、2人目となるアジアからのパイロットも。それぞれ簡単にご紹介しましょう。

いよいよマスタークラスにステップアップ……という言葉がふさわしいのが、2015年のチャレンジャークラス年間王者、フランスのミカエル(ミカ)・ブラジョー選手(ナンバー11)です。1987年生まれの29歳。最年少でエアロバティックス(曲技飛行競技)のフランス代表に選ばれた優秀なパイロットで、2016年の世界エアロバティック選手権でもフランスの団体優勝に貢献しました。2016年は新規にスタートした「マスター・メンタリング・プログラム(MMP)」に参加し、2014年のマスタークラス年間王者であるナイジェル・ラム選手のチームで、マスタークラスに参戦する為のチームメネジメントやレース機への習熟をみっちり行ってきました。2017年はラム選手のMXS-Rとチームメンバーの一部を受け継いで参戦します。これまでのルーキーとは違う形での参戦となる為、そのパフォーマンスに注目です。

ミカ・ブラジョー選手

ミカ・ブラジョー選手

昨年9月、ヘリコプター事故で急逝したハンネス・アルヒ選手の代役(リザーブパイロット)として、2016年の第7戦インディアナポリス大会からマスタークラスにステップアップした、チリのクリスチャン・ボルトン選手(ナンバー5)も2017年、正式なマスタークラスパイロットとして年間通して参戦することになります。室屋義秀選手と同い年となる、1973年生まれの43歳。2015年までチリ空軍の中佐として、軍のエアロバティックチーム「アルコネス(ファルコンズ)」の隊長を務めていました。現在は退役し、プロのエアショウパイロットとして活動しています。2016年千葉大会のチャレンジャーカップ勝者でもあるので、顔を覚えている方も多いでしょう。機体は昨年に引き続き、フアン・ベラルデ選手が2015年に使用していたエッジ540V2を使用します。

クリスチャン・ボルトン選手

クリスチャン・ボルトン選手

チャレンジャークラスには、2014年のハリム・オスマン選手(マレーシア)以来、2人目のアジア人パイロットとなる、香港のケニー・チャン(蒋霆)選手が参戦します。1989年生まれの28歳で、13歳から飛行機の訓練を受け始めたといいます。17歳の時、ロンドンのテムズ川で行われたレッドブル・エアレース(2007年第6戦・勝者はアメリカの故マイク・マンゴールド)を見て、エアレースパイロットに憧れたという、いわばケビン・コールマン選手と同じ「エアレース第2世代」と言えます。19歳でキャセイ・パシフィック航空に入社し、ボーイング747-400の最年少パイロットの1人として活躍したのち、現在はボーイング777のパイロットの傍ら、エアショウで飛んでいます。

香港のケニー・チャン(蒋霆)選手(Photo: FAI / Marcus King)

香港のケニー・チャン(蒋霆)選手(Photo: FAI / Marcus King)

ハンガリーのダニエル・ジェネヴェイ選手は、1978年生まれの38歳。エアロバティックス(曲技飛行競技)のハンガリー代表チームに所属しています。カリブ海にルーツを持つジェネヴェイ選手は、普段はエールフランスのパイロット。パイロット組合の代表を務めた経験もあります。

ハンガリーのダニエル・ジェネヴェイ選手(Photo: FAI / Marcus King)

ハンガリーのダニエル・ジェネヴェイ選手(Photo: FAI / Marcus King)

フランスのバティスト・ヴィーニュ選手は1985年生まれの31歳。エアロバティックス(曲技飛行競技)で世界最高レベルを誇るフランス代表チームのメンバーで、過去にはニコラ・イワノフ選手、フランソワ・ルボット選手、現在はミカ・ブラジョー選手とチームメイトです。現在は曲技飛行も行う飛行学校・航空会社で飛行教官を務めています。

■年間王者争いはどうなる?

開幕戦が2月になり、2016年シーズン終了から期間が短くなったこともあり、各選手の機体改修は小規模な手直しが多く、あまり大きな動きはありません。開幕戦アブダビと第2戦サンディエゴとの間、そして第2戦サンディエゴと第3戦千葉との間がそれぞれ2ヶ月空いているので、この間に本格的な改修がなされていくものと思われます。

しかし、そんな中で意欲的だったのがカービー・チャンブリス選手。エンジニアとともに外見からも判る改良を施しています。ウイングレットをより表面抵抗の少ない形に変更して軽量化、また車輪カバーも新設計して直線での速度向上を図っています。また、クーリングシステムを変更し、エンジンとは別系統でオイルクーラーを冷却するダイレクトクーリングシステムを取り入れました。具体的な形状については明らかになっていませんが、フアン・ベラルデ選手の機体(2015年までポール・ボノム選手が使用)のように、カウリングにオイルクーラー専用の冷却空気取り入れ口を設ける方向で改修しているものと思われます。確実に戦闘力は増すでしょうから、年間王者争いも2016年の8位から、さらに上位に食い込んでくる可能性があります。

また1月12日、マット・ホール選手からの「エッジ540を導入した」という発表は、驚きをもって迎えられました。機体の熟成が間に合わない為、開幕戦のアブダビはMXS-Rで臨むそうですが、シーズンの途中でエッジ540に機体をスイッチすることになります。今までの2年間、MXS-Rで連続して年間2位になっていたところでのスイッチが吉と出るか凶と出るか。これまでのエッジでの飛行経験がわずか2回(ドルダラー選手の機体を借りて15分ずつ)しかない為、不確実な要素が増えますが、元々爆発的な速さを持っているので、機体へ早く慣れることができれば、年間王者の有力候補となるでしょう。

2016年の年間王者に輝いたマティアス・ドルダラー選手。速さに確実性が加わったことで、千葉を除く7戦で表彰台に乗るという安定感が目立ったシーズンでしたが、今年も年間王者の有力候補であることは間違いないでしょう。しかし、まだポール・ボノム氏(2009年・2010年・2015年王者、現解説者)以外に連覇を達成した選手はいないので、2017年は「ディフェンディングチャンピオン」という重圧とも戦っていくことになります。機体やチーム体制については「勝っている時には変えるな」という格言に基づいて、今のところ全く変更点はないとのことです。

2016年の千葉大会に勝利し、期待も高まる室屋義秀選手ですが、機体の速さは十分なので、精神面での安定が年間王者へのカギとなります。「一発勝負が好き」という室屋選手だけに、最後の一発勝負となるファイナル4に毎回残る為、それまでのラウンド・オブ14、ラウンド・オブ8でいかに余力を残して「勝ちに徹したフライト」ができるか。毎回全力を傾注すると精神的に疲れてしまうので、対戦するパイロットに応じて速さをコントロールすることができれば、年間王者争いで優位に立てるでしょう。

過去5年での年間王者争いで3位以内となっていた5名のうち、2017年シーズンを飛ぶのはドルダラー選手とホール選手の2名のみ。あとは横一線といってもいい状況です。各チームの機体も改修を重ねて速さを増しています。個人的にはドルダラー選手、ホール選手、室屋選手の他、チャンブリス選手やソンカ選手、イワノフ選手、マクロード選手、ベラルデ選手が年間3位以内の争いに加わってくるものと思われます。

いろいろ楽しみな2017年のレッドブル・エアレース、開幕戦は2月10日(予選)・10日(決勝)、アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビで行われます。

(咲村珠樹)

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